2010年代も終わってしまって、気がついたら5ヶ月も過ぎてしまっていました。新作映画を見に行けるような状況ではないのにやたらと時間があるので、自分なりに2010年代を振り返ってみたく、2010年代の映画ベスト100をやってみました。
一応順位はつけていますが、結構気分屋なところがありますので、少し経てば変動もあるでしょう。2010年代すべての映画を見たわけでもありませんし。順位は、極めて主観的な感覚で決めています。順位発表後に総評をつけています。それでは。
1、2010年代映画ベスト100
- 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語 (新房昭之[総]/宮本幸裕、2013)
- 戦火の馬 (スティーヴン・スピルバーグ、2011)
- 次の朝は他人 (ホン・サンス、2011)
- A GHOST STORY (デヴィッド・ロウリー、2017)
- 心霊玉手匣 其の四 (岩澤宏樹、2015)
- なんて素敵な日 (ドン・ハーツフェルト、2012)
- ホース・マネー (ペドロ・コスタ、2015)
- The External World (デヴィッド・オライリー、2011)
- アンジェリカの微笑み (マノエル・ド・オリヴェイラ、2010)
- ANEMONE/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション (京田知己、2018)
- ドラッグ・ウォー/毒戦 (ジョニー・トー、2012)
- リズと青い鳥 (山田尚子、2018)
- 闇動画8 (児玉和土、2013)
- SUPER 8 (J・J・エイブラムス、2011)
- きみの鳥はうたえる (三宅唱、2018)
- 風立ちぬ (宮崎駿、2013)
- ペコロスの母に会いに行く (森崎東、2013)
- ブンミおじさんの森 (アピチャッポン・ウィーラセタクン、2010)
- かぐや姫の物語 (高畑勲、2013)
- 交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1 (京田知己、2017)
- 夜会vol.18「橋の下のアルカディア」劇場版 (2014)
- 女っ気なし (ギヨーム・ブラック、2011)
- レッドタートル ある島の物語 (マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット、2016)
- ボクシング・ジム (フレデリック・ワイズマン、2010)
- ひかりの歌 (杉田協士、2017)
- 収容病棟 (王兵、2013)
- Um século de Energia (マノエル・ド・オリヴェイラ、2015)
- 湖の知らぬ男 (アラン・ギロディ、2013)
- テラスハウス クロージング・ドア (前田真人、2015)
- プロジェクトX (ニマ・ヌリザデ、2012)
- 霊的ボリシェヴィキ (高橋洋、2018)
- 神々のたそがれ (アレクセイ・ゲルマン、2013)
- 人生タクシー (ジャファール・パナヒ、2015)
- ほんとにあった!呪いのビデオ71 (福田陽平/寺内康太郎、2017)
- ドラフト・デイ (アイヴァン・ライトマン、2014)
- ブラックハット (マイケル・マン、2015)
- マイ・ブラザー 哀しみの銃弾 (ギヨーム・カネ、2013)
- 魔王 (ジョルジュ・シュヴィツゲベル、2015)
- ホワイトハウス・ダウン (ローランド・エメリッヒ、2013)
- サンローラン (ベルトラン・ボネロ、2014)
- ライズ・オブ・シードラゴン 謎の鉄の爪 (ツイ・ハーク、2013)
- ランゴ (ゴア・ヴァービンスキー、2011)
- ヴィレッジ・オン・ザ・ヴィレッジ (黒川幸則、2015)
- 最後まで行く (キム・ソンフン、2014)
- ラッシュ/プライドと友情 (ロン・ハワード、2013)
- フライトゲーム (ジャウム・コレット=セラ、2014)
- WONDER (水江未来、2014)
- ほんとうに映した!妖怪カメラ (寺内康太郎、2015)
- サウダーヂ (富田克也、2011)
- ウルヴァリン:SAMURAI (ジェームズ・マンゴールド、2013)
- ディアーディアー (菊地健雄、2015)
- ザ・ウォード/監禁病棟 (ジョン・カーペンター、2010)
- セインツ 約束の果て (デヴィッド・ロウリー、2013)
- 流出封印動画5 (田口清隆、2015)
- 婚前特急 (前田弘二、2011)
- アンストッパブル (トニー・スコット、2010)
- ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影〈シャドウズ〉 (デイヴ・グリーン、2016)
- インシディアス 第2章 (ジェームズ・ワン、2013)
- 大人のためのグリム童話 手を失くした少女 (セバスチャン・ローデンバック、2016)
- 戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-04 真相!トイレの花子さん (白石晃士、2013)
- 女神の見えざる手 (ジョン・マッデン、2016)
- スプリング・ブレイカーズ (ハーモニー・コリン、2012)
- エヴリバディ・ウォンツ・サム‼︎ (リチャード・リンクレイター、2016)
- 永遠の僕たち (ガス・ヴァン・サント、2011)
- ジェーン・ドウの解剖 (アンドレ・ウーヴレダル、2016)
- パディントン2 (ポール・キング、2017)
- エッセンシャル・キリング (イエジー・スコリモフスキ、2010)
- V/H/S ネクストレベル (サイモン・バレット/アダム・ヴィンガード/エドゥアルド・サチェス/グレッグ・ヘイル/ティモ・ジャイアント/ギャレス・エヴァンス/ジェイソン・アイズナー、2013)
- 顔のないスパイ (マイケル・ブラント、2011)
- 傷物語Ⅰ 鉄血篇 (尾石達也、2016)
- アンカット・ダイヤモンド (ベニー・サフディ/ジョシュ・サフディ、2019)
- ステイ・フレンズ (ウィル・グラック、2011)
- わたしたちの家 (清原惟、2017)
- 少年と自転車 (ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ、2011)
- デトロイト (キャスリン・ビグロー、2017)
- アスファルト (サミュエル・ベンシェトリ、2015)
- 死画像 (2015)
- 夏の娘たち〜ひめごと〜 (堀禎一、2017)
- 黒い乙女A (佐藤佐吉、2019)
- イップ・マン 葉問 (ウィルソン・イップ、2010)
- マイブリッジの糸 (山村浩二、2011)
- トランスフォーマー/最後の騎士王 (マイケル・ベイ、2017)
- ラブ・アゲイン (グレン・フィカーラ/ジョン・レクア、2011)
- ザ・ベビーシッター (マックG、2016)
- ハッピーアワー (濱口竜介、2015)
- ゲゲゲの女房 (鈴木卓爾、2010)
- ディストラクション・ベイビーズ (真利子哲也、2016)
- 魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st (草川啓造、2010)
- ホーリー・モーターズ (レオス・カラックス、2012)
- スティーブ・ジョブズ (ダニー・ボイル、2015)
- 浮き草たち (アダム・レオン、2016)
- マチネの終わりに (西谷弘、2019)
- コクリコ坂から (宮崎吾朗、2011)
- ゴダール・ソシアリスム (ジャン=リュック・ゴダール、2010)
- エヴァンゲリヲン新劇場版:Q (庵野秀明、2012)
- ホームレス理事長 (土方宏史、2014)
- 愛と誠 (三池崇史、2012)
- 復讐者のメロディ (ジェレミー・グエズ、2018)
- X-MEN:フューチャー&パスト (ブライアン・シンガー、2014)
- 空の境界 未来福音 (須藤友徳、2013)
2、総評 2010年代の映画について
2010年代の映画はショーン・ベイカー*1の映画や、心霊ビデオの動向を見てもわかるように、撮影技術の向上により、iPhoneでも映画が撮れてしまう時代が到来したとひとまずはいえるでしょうか。 それは映画以外の映像圏においても、Youtuberの存在や、InstagramでのLIVE配信というものが、アイドル、アーティストだけではなくマス層まで広がっていき、誰もが動画を作る/配信する時代になりました。
一部ではありますが、アーカイブだけではなく、封切映画まで家で鑑賞できるようになりました。それに『ROMA』がNetflixオリジナル作品として映画館で公開されるなど、映画館⇄配信の関係性も変わり始めている時代になりつつあります。今や大勢の知らない人と映画を見るよりも、Netflixで配信されている新作を自宅で見るということが、リアルになる時代なのかもしれません。
さて、そのような時代を反映した映画を選出しているといえるか、いえないか、わかりませんが…100本選びました。流石にすべての作品に触れることはできませんが、選んだ作品の一部を絡めた話をしていきたいと思います。
(1)2000年代、2010年代の変化について
私が毎年発表している年間ベストと同じように、実写、アニメーション、心霊ビデオ、短編映画、など、全てごちゃ混ぜで選出しています。基準は「映画を感じる」「何となく好き」「これは映画の良心だ」といったもの(よくわかりませんね)。
私は映画を学んだことはないで、空気感みたいなものしかいえませんが、2000年代と2010年代で変わったことといえば、フィルムとデジタル論争に終わりが見えてきた? もちろん、今もフィルムで撮影する監督はいらっしゃいます。ただ、『サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ』(2012)が公開された当初と、今の空気感は変わっていて、フィルムを残さなきゃ!いや、デジタルでしょ! という議論の段階にはもうないと感じます。それはもちろん、先述したようにiPhoneがあれば映画が撮れてしまう時代であることも関係しているでしょう。
また、レフ・マノヴィッチが「デジタル映画とは、多くの要素の一つとしてライヴ・アクションのフッテージを用いる、アニメーションの特殊なケースである」*2と評しているように、トレンドの映画では実写なのかアニメーションなのか、線引きが難しい時代にもなりました。アカデミー賞のアニメーション部門にノミネートするには、「75%がアニメーションでなければならない」といった基準を設けていますが、時代が反映された基準ではないでしょうか。まあ、75%といわれても、超写実的に作られたアニメーションは実写と見分けがしづらくなっていますし、私たちの視覚との感覚のズレも起きているかもしれません。
ざっと映画の移り変わりに触れましたが、もう少し局所的なところでいえば、シネフィルから支持されてきた映画監督の変化もあるのではないかと思います。例えば、蓮實重彦の門下生、黒沢清、青山真治の映画の感触がかなり変わったことが挙げられるでしょうか。これは俗にいう震災以前/以後で切り分けられるほど、単純な話ではなさそうですが。
高橋洋が脚本を担当したドラマ『予兆 散歩する侵略者』(2017)は、90年代のVシネ時代の雰囲気を少し取り戻したように思えましたし、本編の方の映画『散歩する侵略者』(2017)でも、もう少しで『勝手にしやがれ‼︎』シリーズ(1995-1996)に成りそうで面白くは見れましたが、黒沢清がああした「愛」っぽいものを描いたのも変化だと思います(それは『岸辺の旅』でも感じたことではありますが)。海外で撮影した『ダゲレオタイプの女』(2016)には拘束器具に対するフェチシズムが薄かったし、終わり方も『トウキョウソナタ』(2008)以前の黒沢清とは違うように感じました。
それでも黒沢清は映画を量産してきましたが、青山真治に至っては『共喰い』(2013)以降、長編映画を発表していません。ただ明るいニュースもあり、先日『こおろぎ』(2006)が、初DVDおよび配信開始。そして、ドラマ『金魚姫』の放送と話題になっていますので、そろそろ長編映画が見たいな…という気分になってきました。
(2)新世代の映画監督、そしてフィクションとドキュメンタリー
2000年代以前に結果を残した監督たちの変化は見られるわけですが、もちろん、新しい世代の監督も増えてきました。2010年代を代表する映画監督といえば、デヴィッド・ロウリーがまず挙げられるのではないでしょうか。今回『A GHOST STORY』と『セインツ 約束の果て』を選出しておりますが、『ピートと秘密の友達』や、レッドフォードの最終作品となった『さらば愛しきアウトロー』も素晴らしい映画でした。彼の作品は少しロマンティックになるきらいがあるため、私が選んだ二作は苦手って人もいるでしょう。逆にそういう人は後者の作品の方が好みが合うのではないでしょうか。新しい才能といえば、濱口竜介や三宅唱が代表的な作家になるでしょうか。100本に選んだ中では、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクン、フランスからはギヨーム・ブラックも出てきました。
濱口竜介『ハッピーアワー』は、フィクションとは何なのか? と考えたときに『テラスハウス クロージング・ドア』や『ほんとうに映した!妖怪カメラ』、『Not Found外伝 いま、霊に会いにゆきます』(2014)といった作品と一緒に検討されると、何らかしらの気づきが得られるかもしれません。
心霊ビデオは、映像の技術進歩が顕著に現れるジャンルです。基本的にこの辺りの作品は、素人が投稿してきたという設定で展開されることが多く、その場合に使われるカメラはiPhoneがリアルになってきました。ウェアブル・カメラ(アクションカメラ)もいち早く取り入れていましたし、日本だけではなく、海外の心霊ビデオともいえる『V/H/Sネクストレベル』でも、目、犬、ゾンビのPOVなど、新しいことをやるといった意味でこのジャンルはまだまだ勢いがあるでしょう。このジャンルは、ひとつに『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)から輸入されてきたといえますが、白石晃士は『ありふれた事件』(1992)に影響を受けたといっていますし、少しずつ土壌が生成されてきたのかもしれません。日本の心霊ビデオはおそらく『V/H/S』シリーズにも少なからず影響を与えていると思いますし、それが逆輸入してくる形で『流出封印動画』へ影響を与えたのではないでしょうか。後にこのジャンルは、韓国産の心霊ビデオ『コンジアム』(2018)にも引き継がれていますし、まだまだ衰えを知らないジャンルでしょう。
フェイクではないドキュメンタリー映画として、『ホームレス理事長』、『ボクシング・ジム』を選んでいます。ドキュメンタリー映画ではありませんが、ここに通じる作品はペドロ・コスタの『ホース・マネー』でしょうか。それに、キャスリン・ビグローの『デトロイト』。後者は胸糞悪い映画なので、何度も見返すことができないのですが、例えば初めの暴動シーン。店のガラスを破って自転車を盗むシーンは、まるでフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリー映画を見ているような感覚がありました。フィクションであっても、今目の前で起こっているように感じる瞬間があります。シャンタル・アケルマンは「フィクションにはドキュメンタリーが、ドキュメンタリーにはフィクションが内在している」*3と発言しています。フィクションとドキュメンタリーには明確な境界が存在していなく、その相互関係の中で揺れ動いていることが重要なのではないでしょうか。
「私はいつも、二つのものの間を揺れ動いていました。(中略)映画というのは、ひとつの極から別の極へ揺れ動くなにかなのです」ジャン=リュック・ゴダール(『ゴダール 映画歴(全)』ちくま学芸文庫)
何十年にわたって活躍する映画作家も健在です。スティーブン・スピルバーグは『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)も素晴らしい映画でしたが、「夜の戦場を疾走する馬が鉄条網の有刺鉄線をいくつもひきずりながらなおも立ち止まろうとしないひたむきさは、映画ならではの感性の震えをスクリーンの全域に行きわたらせる」と蓮實重彦(『映画時評2012-2014』)が評しているように、『戦火の馬』にはスピルバーグの底力が宿っていました。
(3)怖かった映画とアニメーション映画
ホラー映画というか、怖かった映画といえば、真っ先にあがるのが『死画像』でしょうか。高校生のころに友人と一緒に見た『呪怨』(ビデオ版)ぶりにトラウマ映画となりました。面白い映画でもありますが、正直なところ一人で見たくないです。それに『闇動画8』に収録されている短編『邪教』は、のちの『魔窟』シリーズの原型になるような作品です。廃墟で試したら怖くて動けなくなると思います。また、ホラーというジャンルを活用しながらも、他ジャンルとも接触した『黒い乙女A』は、2010年代の想像力を実感した作品でした。オールドスクールなホラー映画が好みな方は、前作である『黒い乙女Q』や、『ジェーン・ドウの解剖』の方がおすすめできます。
2010年代のアニメーションも、新たな扉を開いたといえるのではないでしょうか。アリ・フォルマンが『戦場でワルツを』(2008)で様々な賞を受賞しましたが、これにより2010年代はアニメーション・ドキュメンタリーが増加しました。また、新海誠も2010年代で外せない作家だと思いますが、私個人としてそこまで好みではないと言った理由から作品は選んでいません。『君の名は。』は彼のフィルモグラフィーが見渡せるいい映画だと思いますが。
この時代でどうしても外せないのが、『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』。当時は思わなかったのですが、ドン・ハーツフェルトのビル三部作。特に『なんて素敵な日』と一緒に検討すると面白いかもしれません。ハーツフェルとの作品は棒人間が主人公であり、『まどマギ』と比べると見た目は対照的に見えるかもしれませんが、言葉にできない共通点のようなものがあると思っています(それを文章化できるのはまだ先になりそうですが…)。
それと絶対に外せないのが、『交響詩篇エウレカセブンハイエボリューション』シリーズです。順位は『ANEMONE』が上ですが、形式的な話だけすれば、『ハイエボリューション1』の方が好みかもしれません。本作はテレビシリーズの映像を主体として活用していますが、新しい物語を形式だけで創造している。ここまで前衛的なチャレンジは評価せざるを得ません。もちろん、物語も素敵です。『ANEMONE』もまたぶっ飛んでいます。これ『ハイエボリューション3』どうなっちゃうの? と思うのですが、ほんと、どうなるんですかね。藤原啓治さんの声を聞きたかったのですが…。過去作を再生して噛みしめて生きたいと思います。
高畑勲の遺作となった『かぐや姫の物語』はアニメート=作画する、といったアニメーションの到達点になったのではないでしょうか。『風立ちぬ』を見るとどうしても『母娘監禁・牝』(1987)を思い出したりしますが、宮崎駿ベストになったなと思っています。
(4)総評その1
どうしてもアニメーションと心霊ビデオを贔屓目に見てしまうのですが、それでも実写映画の方が圧倒的に多かったので、ひとまずほっとしています。
- 実写 :75作品
- アニメーション:17作品
- 心霊ビデオ : 8作品 (『V/H/S ネクストレベル』も含む)
なるべく監督ひとりにつき、1作というルールを設けて選ぼうとしたのですが、デヴィッド・ロウリー(『セインツ』『A GHOST STORY』)、マノエル・ド・オリヴェイラ(『アンジェリカの微笑み』『Um século de Energia』)と2本選んでしまっています。
2010年代、亡くなった映画監督もいますが、イーストウッドとゴダールはまだ健在です。イーストウッドの早撮りは驚かせます。イーストウッドほどのペースではありませんが、ゴダールも『ゴダール・ソシアリスム』、『さらば、愛の言葉よ』(2014)、『イメージの本』(2018)と3本も作品を残しています。
そして、スマートフォンの普及によって映画批評の場や、その形も少しずつ変わってきているのではないでしょうか。SNSが普及する少し前、ゼロ年代ではブログに活気がありました。2010年代に入ると、映画感想の場がTwitterにチェンジしていき、終盤に差し掛かるとブログはログを残すという意味で、Twitterでつぶやいた感想を転載および、編集するといったブログが増えました。
話題作の公開日には感想が溢れますし、誰よりも先に「評価する」といったTweetが増えているのではないでしょうか。また、スクリーンショットを添えてツイートしたり、感想を絵に描き起こしたりと、差別化を図る感想も増えました。匿名性が有効であったインターネットから、個の主張が強くなる時代が到来したことで——インフルエンサーがわかりやすい例えですが——内容より「誰が」言ったかが、正しいとみなされる時代にシフトしてきたようにも思えます。いつの時代にもそれはいえると思いますが、それだけに速度ではない価値観も重要ではないかと考えます。
(5)他所での2010年代ベストについて
私は2010年代ベストを作るまでに膨大な時間をかけたような、かけていないような(何度か挫折している)感じですが、他所ではすでにベストを発表されている媒体があります。まず、カイエ・デュ・シネマの2010年代ベストです。
Le top 10 2010-2019 des Cahiers du Cinéma.
— Cahiers du Cinéma (@cahierscinema) 2019年12月6日
Pour acheter le numéro en ligne : https://t.co/VU1Beukw6g pic.twitter.com/R64vuIlhDD
一応、日本語訳すると以下のようになります。
- ツイン・ピークス The Return (デヴィッド・リンチ、2017)
- ホーリー・モーターズ (レオス・カラックス、2012)
- プティ・カンカン (ブリュノ・デュモン、2014)
- ブンミおじさんの森 (アピチャッポン・ウィーラセタクン、2010)
- イメージの本 (ジャン=リュック・ゴダール、2018)
- ありがとう,トニ・エルドマン (マーレン・アデ、2016)
- 母よ、 (ナンニ・モレッティ、2015)
- メランコリア (ラース・フォン・トリアー、2011)
- アンダー・ザ・スキン 種の捕食 (ジョナサン・グレイザー、2013)
- アンジェリカの微笑み (マノエル・ド・オリヴェイラ、2010)
カイエとは『ブンミ』『アンジェリカ』の2本かぶりでした。それよりもTwitterで見たときもびっくりしたのですが、なんとナンバーワンはドラマです。
私も心霊ビデオ選んでいるので人のことは言えませんが(まあ、OVAノリでアリでしょうって態度ですが)、権威になり得る雑誌でベストをドラマから選ぶのか? と驚きました。本作は見ていませんが、確かに映画のように優れたドラマもあります。実際、私立探偵濱マイク『名前のない森』(青山真治)は、「これ、映画でしょう」って感じますし。そしてカイエの次は映画秘宝です。
- マッドマックス 怒りのデス・ロード (ジョージ・ミラー、2015)
- オデッセイ (リドリー・スコット、2015)
- レゴバットマン ザ・ムービー (クリス・マッケイ、2017)
- スーパー! (ジェームズ・ガン、2010)
- バーフバリ 伝説誕生/王の凱旋 (S・S・ラージャマウリ、2017)
- キラー・スナイパー (ウィリアム・フリードキン、2011)
- ヒーローショー (井筒和幸、2010)
- 十三人の刺客 (三池崇史、2010)
- 哀しき獣 (ナ・ホンジン、2010)
- ヘレディタリー/継承 (アリ・アスター、2019)
やはりこの雑誌固有の特徴が出てきます。カイエとは1本もかぶっていません。予想通り『マッドマックス』がベスト。映画秘宝ならずとも、Twitterの映画クラスタ内でも、ベストにあげている人が多い作品のひとつじゃないでしょうか。時代を反映したアクションの連べ打ち映画という気がします。退屈する前にアクションを乱れ打ちにするってことになるわけですが、私なんかはもう少しタメが欲しいタイプなので、あまりピンとこなかった。まあ、それでも支持されるには理由があるよなって思いました。この中では『ヒーローショー』と『スーパー!』は好みですね。
(6)総評その2——アクションの連べ打ち
「アクションの連べ打ち映画」というのは、今の時代を反映させていると思っていて、その理由のひとつに、映画やテレビドラマ以外にもYouTube、インスタの1分の動画(今は長いのも投稿できますが)、TikTokなど、短い動画が増えました。また、誰もがスマホを持つ時代となり、手軽にどこでも映像を楽しめるようになった。先述もしましたが、映画館で休まず映画を見るということよりも、そういった短い映像がリアルになってしまった。
2時間の映画を集中して見ていられない人が増えてきた原因でもあるでしょう。それに映画やドラマを見るというよりも、「Netflixを見る」と言葉にする人が多くなっていることも、そんな時代の雰囲気を表している。映画館がプラットフォームとしてではなく、映画もドラマもアニメも映像コンテンツとして、一列に並べられてしまった時代といえるのではないでしょうか。
フォロイーさんも早いうちにベストを挙げておられ、体たらくな自分にカツを入れなければと思った次第でもあります。こうして見ると各自個性が出ていて面白いですよね。他の人もガンガンベスト100選びましょうね(圧)。
3、最後に
選んだ映画についてあまり触れられませんでしたが、とりあえずやりきった感があるのでここら辺で幕を閉じようと思います。100本選んでいるわけですが、正直なところ100本じゃ収まりきりませんし、まだまだ見れていない映画も山ほどあります。それこそ、たった10年のできごとですが、一生かけても全て見るってことはなかなか難しいでしょう。それなのに、1万字以上の文章を書いてしましました。これ、2010年代映画論なるものを書いたら10万字超えるんじゃないでしょうか、書きませんけど。
ということで、2020年代また映画をたくさん見たいですし、いつも通り気が向いたらまた感想でも書こうと思います。という感じで!また!
*1:アメリカの映画監督。『チワワが見ていた ポルノ女優と未亡人』(2012)『タンジェリン』(2015)『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017)等
*3:『ゲスト』ホセ・ルイス・ゲリン(2010)