映画というよりも、どこかの部室の片隅に落ちている記録フィルムのような作品だ。8ミリフィルムで撮られた黒白画面は表面上の傷や埃などが、あえてそのまま残してあるような感覚を受ける。そのざらついたイメージが、90年代後半以降の心霊ビデオなどの何か危ういものの感覚と近しい。しかし、物語設定上では3.11以降の出来事を描いているというから驚きだ。まるで10年代の感覚がなく、映像が物語と乖離している。もちろんこれは悪いことでは全くない。こういったズレが映画のひとつの魅力だろう。
傷ついたフィルムの夜に白いシャツの男がひとりたたずむ。ただそれだけで怖いと感じる。女が「かんじくん、かんじくん」と夜ひとりで出歩く彼を探し、電気をつけて、部屋を確認して電気を消す。どこにもいない彼。路上にたたずむ彼。説明描写を最低限に絞るとともに、ショットと次のショットがまるで次元の違う場所を映しているかのような不安定さがこの映画(フィルム)の魅力ではなかろうか。彼が狂った(呪われた)理由が明確に示されないのは描く能力がないのではなく、「怖い」感覚が何が何やらわからないものだから恐怖するからであろう。だからアートなフィルムではなく、心霊ビデオの途中で挿入される恐怖映像の断片的なものが繋がってしまった「怖さ」がこのフィルムの特徴であるといいたい。
そしてもうひとつが都市映画だったということ。少し用法が違うけど『ラブ&ポップ』(1998)などの都市空間の表現方法。そして、アニメ『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』(2000)の掴み取りづらい断片的な感覚。特に『ブギポ』からは物語的な側面、オカルトな雰囲気も似ているなと感じた。確かに形式も違うわけなのだが、例えばテレビ『エヴァ』の雰囲気を『serial experiments lain』(1998)もまとっていたようなといえばいいだろうか。何が何だかわからないけど「怖い」感覚。『死画像』(2015)あたりにも通じるような気持ちの悪さがこのフィルムにまとわりついている。
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