つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

濱口竜介『親密さ』(2012)

やっと『親密さ』を見た。濱口竜介フィルモグラフィーをたどるならば、避けては通れない映画だっただけに何年か前、映画専門チャンネルだったかでかかったときに録画をしたのだけど、なかなか覚悟が決めれずに放置していた。2010年代が終わり、2020年代が始まったことで、2010年代の埋葬的な意味合いで序盤のドラマパートまでを一夜、演劇パートからをもう一夜で二日間に分けて鑑賞した。

『天国はまだ遠い』(2016)なんかが顕著に出てるけど、お話自身はありふれたというか、結構シンプルで技巧的に組み立てて魅せちゃう作家だと思う。それだけに若手の注目株だし、苦手な人は本当に苦手なんだろう。私は『ハッピーアワー』(2015)にえらく感動させられた。公開された2015年が『テラスハウス クロージング・ドア』や、『心霊玉手匣 其の四』、『ほんとうに映した!妖怪カメラ』などフィクション/ドキュメンタリーの狭間を揺れ動く傑作が立て続けに発表され、その年の最後に公開された同時代性みたいなものに持って行かれてしまったのだろうと思う。それで『寝ても覚めても』(2018)のような作品が出てきたのは、これまた奇妙な感覚があるのだけど、いづれにせよ、新作が公開されたら見に行こうかなと思える映画監督のひとり。

さて、『親密さ』は映画/演劇のような語られ方をされるけど、結局は映画なんだろう。演劇シーンで二人横並びで会話をするシーンでは、正面切り返しで繋いでいるので、まるで二人が対峙して話しているように感じられる。小津映画で見られる正面切り返しでは、まるで二人の視線はあっていないのではないか? と思われるような繋がれ方が見られるけど、『親密さ』の場合は、「演劇」といった設定を担保にして向かい合っていないところを編集して、視線が結びついているように演出する。演劇の前にメンバーと監督役が二人で対話するシーンを切り返ししているように対応しているし、ラストに電車の並走から投げキッスを交わすシーンとも呼応する。そこにふっと存在するのが当たり前のように演出をする。批評的であり、とても頭がいい人なんだろうと思うわけだ。ただ私は演劇に詳しくはないので明言を避けるのだけど、そもそも観客が見やすいように正面を向いているだけで、本当は向き合っているといった設定なのかもしれない。

どこか90年代から始まった空気感を引きずったゼロ年代のような空気感が映画に充満していた。2010年代を過ぎてしまってから、自分がそういったものと離れてしまってから鑑賞したからあまり響いてこなかった(それでもラストの投げキッスは最高でしたが)。多分、ゼロ年代のアニメを浴びるように見ていた頃に出会っていたら、打ち砕かれるくらいの衝撃を受けたに違いない。そういった意味では10年前に濱口竜介が出てきて欲しかった。それと「批評的」といった言葉を使ったけど、ゼロ年代の空気感といい、彼が批評再生塾にも講師として出てきていたのも必然なのかもしれない。今の映画批評に希望は見えないけど、批評するなら(批評的な)創作した方が本質的なのかもな。資本主義と程よく付き合いながら批評をする必要はあるのだろうか。もっと他の方法がないだろうか。これはもう生き方の問題だ。なんだか暗い話になってしまった。

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