つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

2020年TL経由で知った音楽——GEZAN『狂(KLUE)』のメタル感について

私も老害化したのか、「さいきんの子達って、どうやって音楽知るんだろう?」と思うことが多いのだけど、そりゃあ今ではSNSがあるし、インターネットの彼方此方に情報は氾濫しているので、聴く音楽に困るってこともないのだろうと一応の結論をつけている。というのも、自分も知らず知らずにTwitterのタイムライン(TL)に影響を受けて音楽を知ることは多いからだ。

多分、私はTwitterで以下の割合でフォローしている。

  1. 音楽
  2. アニメ
  3. 映画

そのなかでも、ファン/ライター/批評家/botなど、さらに枝分かれしている。

私自身はコンテンツになる元気もなければ、アカウントを分けることさえめんどくさいと思うタイプなので、すべての趣味や一般的なパーソリティに触れることもこちらのアカウントでインプット/アウトプットしている。フォローする/しないはかなり恣意的で、会ったことがある、会ったことがある人の知人・友人、点で見て琴線にふれる何かを投稿していたとき、といったようなもの。

11年?Twitterをやっていると、新規でコミュニケーション——そもそもそこまで積極的にリプ飛ばさないが——を増やそうとするのもめんどくさい…となってしまい、なかなか新規にフォローする機会もない。自分は感じていないが、ある種のSNS疲れではないか? とも思ったりする。そもそもコミュニケーションに長けた人間ではないし、純粋に「つぶやく」ツールとして使っているので、どうでもいいかなんて。

ただそれだけ長くやっていると、タイムラインに文脈が発生しなくなる。それは、「音楽」の話題ひとつとっても、音楽メインの話をしている人だけのつぶやきだけではないからだ。例えば、映画のことをメインにつぶやくアカウントの人々では、HIPHOPの話がよく出てきたりする。それだけ、2010年代にはHIPHOPが市民権を得たということだろうし、アンダーグラウンドな音楽を好む人たちはアイドルの話をしていたりと、彼方此方にクロスオーバーしている。

コロナ禍において、現場(ライヴハウス)での誤配が起きにくくなると危惧していたが、Twitterでは今でも無数の誤配が日常に存在していると認識させられる。人間ひとりのカバー範囲には限界があるので、この「点」で捉えていく…ということを続けていても実りある知識は蓄積しづらいだろう。もちろん、誰もが自分の思っていることをアウトプットするわけでもないし、ひとつの快楽として音楽を享受することは別に悪くもない。

さて、前置きが長くなってしまったが、GEZAN『狂(KLUE)』のメタル感についての話をしよう。

GEZANの存在を知ったのは、李氏さんあたりのtweetを見たのがきっかけだったと思う。TLで知った後、三秒後にはバンド名をSpotifyで検索して、10秒後には再生している。ブレードランナーもびっくりな世界ではないだろうか。しかし、2021年現在の当たり前の日常だ。

まず初めに自分の音楽興味範囲を示しておくと、ハードコアパンクデスメタル、パワーヴァイオレンス、グラインドコア、ゴアグラインド、スラッジコア、ドゥームデス、これらのクロスオーバーミュージック…をよく聴いている。2020年のベストは、記事の終わりに載せているので興味があったらどうぞ。

「GEZAN」と聞くと、名前のインスピレーションからメタルなのかな? と思っていたのだが、アルバムを試聴した結果、その印象がほとんど間違っているし、ある意味当たっている思わされた。イーヴィルなスラッシュメタルの文脈からいくと、人が赤い被り物(布巻いているだけだけど)被っているジャケットを見ると、「SODOMかよ!」こってなるでしょう。

In the Sign of Evil

In the Sign of Evil

  • アーティスト:Sodom
  • 発売日: 1998/06/30
  • メディア: CD
 

 ってのは冗談にしても、赤い巻物みたいなものはSpirit PossesionのST(2020)もそうだったし、赤い巻物流行ってんのか? って。ただ、実際にポスト・ブラックメタルポスト・ハードコアから影響受けたようなパートもあったり、前作『Silence Will Speak』なんて1曲目から、シャウトとポコポコしたドラムの煽りから始まってブラックメタルかよ? となる。全体として聴くと、envyとか轟音系のバンドから影響受けてるのかなー。『ヘドバンvol.28』で2020年メタル系アルバムベストでも選出している人がいるし、メタル味を感じてもいいのだろうと。

それとどこかポリティカル、ラディカルさってkillie*1とも通じるよな〜って思って、李氏さんの「声と革命—GEZAN「狂(KLUE)」論—」(『痙攣』掲載)を読んでいて、全感覚祭か〜と深くうなづいた。

www.youtube.com

あと見事な曲の転調とか、轟音まざっているとVampillia*2とか(ジャンル違うけど)。ロック経由していないけど、知っているアレコレに通じているとアガる。それと、どこかポップさも持ち合わせているのが素晴らしい。いいアルバムはどこかにポップさを感じるってのが、共通してある(もちろんなくてもいい)。例えば、SPAZZ*3の名盤3rd『Crush Kill Destroy』にだってパワーヴァイオレンスながら、ポップさを感じるし、それって、つまりスラスラ(SLIGHT SLAPPERS)*4がずっと体現していること。それとマイクパットンもあるのかな。

まとめると、GEZANのメタル感って無数に枝分かれしたヘヴィメタルとか、ハードコアパンクなどのジャンルが、クロスオーバーしながら、ひとつの音として戻ってくることによって『狂(KLUE)』が誕生しているのかも。私が聴いているのも交通事故的な出会いだし、TL誤配のなせる部分にも由来するようにも思える。先に書いたように今の音楽って、SNSやインターネット上で流れてきたバンド名を、サブスクや(違法だけど)youtubeで聴けるので、音楽雑誌や初期インターネットを流行っていた時代よりもさらに誤配の範囲が広がっている。私はロックをすっ飛ばしているけど、メタル/ヴィジュアル系⇨ハードコアっていう音楽遍歴をたどっているので、ある程度、共通的な要素の連なりで音楽を聴いている旧来型の人間なのだと思う。そんな、旧来型な人間が、現代的な誤配で本作を聴くことになったので、クリティカルなことは何もいえないけど、美しい音楽だし、単純にカッコいいと思った。出会いはいつも唐突にやってくるものである。

全体の話はしたところで個別に楽曲感想。まず、#01「狂」私のめちゃくちゃ浅いHIPHOP知識(というか経験)なので間違いだったらごめんなさいだけど、日本語HIPHOP的な語り口で始まり、そのアングラ感から「カッケー」と厨二のガキのようにぶちアガる。ベースで引っ張っていき、だだっ広い世界が目に浮かぶようなギターのロングサスティーン。そして、曲調がグッと変わる#2「EXTACY」急に、まるで民族音楽のようなサウンドに。ただ、あくまでもベース主体とギターの役割はほとんど変わっていない。ただ、リズムが民族っぽい。#3「replicant」では前のめりにスピードがまし、一瞬の言葉が導入される、#4「Human Rebelion」から#5「AGEHAで歪んだギターが主張しだして、メロディを奏でる。うねり、うねられまくった音楽は到達点まで最初の達する。#6「Soul Material」では急激にテンポを落として、楽器のような役割をしていたボーカルがメロディを歌い出す。急にキャッチーというか、ポップな楽曲になるので序盤との落差がすごいが、ここまでの転調豊かな楽曲の繋がりから、とても美しく聞こえる。「はい!ここで待った!」と言われているかのような、#7「訓告」でまたダーティーな世界観へ。声はまた楽器としての役割へ回帰する。ギターはサウンドスケープを描くように。そして、また爆裂サウンド#9「赤曜日」ギターの刻みから、ドラムのタム回しとシャウトがポスト・ブラックメタルポスト・ハードコアっぽい。「神様を殺せ」って歌詞が聞こえてくるのが、これまたヘヴィメタル感もあるよね。次の「Free Refugees」のドラム?太鼓? のポコポコした音色が心地いい。そして、ギターノイズ+シャウトで始まる名曲#11「東京」これが、sadsの『TOKYO』ぶりにトーキョーを意識した楽曲になっているのではないか(個人的に!)。「想像してよ、TOKYO!(狂った街)」。ここまでイビツな楽曲でアゲてから、最後にチルっていく#13「I」実にお見事しかいいようのない幕の閉め方で、GEZANのポテンシャルに触れることができた。

GEZANこのあたり、水谷さん(3LA)あたりにもお話を伺ってみたいなーとか思った。それと、本当はTHE NOVEMBERSやHAEMORRHAGEのことも書こうと思ったんだど、もう書けない!また今度ということで〜(多分)。

paranoid3333333.hatenablog.com

 

狂(KLUE)

狂(KLUE)

  • アーティスト:GEZAN
  • 発売日: 2020/01/29
  • メディア: CD
 
SILENCE WILL SPEAK

SILENCE WILL SPEAK

  • アーティスト:GEZAN
  • 発売日: 2020/06/24
  • メディア: CD
 

*1:日本のハードコアバンド。killieの音楽性を一言で言い表すのは困難であるが、カオティック、激情ハードコアあたりの文脈(例えばenvy)で捉えられる機会が多い。

*2:2005年結成。関西に拠点を置くブルータルオーケストラバンド。

*3:1992年結成、アメリカのパワーヴァイオレンス・トリオSPAZZ。パワーヴァイオレンスの教科書みたいな存在。

*4:1994年結成、東京パワーヴァイオレンス。