つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

アニメーションにおけるショットについて(1)——『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』第7話「葵色の弾丸」

ここ最近めっきりブログ更新が滞っているので、以前から書いてみたかったことについて書いてみようかと。「アニメーションにおけるショットについて」なんてたいそうなタイトルをつけていますが、基本的に演出の話をしていきます。ただ、「作画」とか「演出」などの言葉ではなく、もう少し広い視野で画面について考えていきたいと思い、あえて「ショット」を使っています。ショットではなく「カット」や「画面」といった言葉でもいいのではありますが、蓮實重彦があの歳までしきりにショットといっているところを見ていて、アニメーションにおけるショットについても考える手がかりになればいいなと思い、こんなタイトルにしてみました。

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・2つの出来事が1つのショットで描かれる

第1回目は『BIRDIE WING -Golf Girls' Story-』第7話「葵色の弾丸」について。『BIRDIE WING』は、2022年春に放送されたゴルフアニメだ。トンデモノリのアニメだが、古典的な演出で手堅く、2022年春アニメのダークホース的存在だった。簡単に物語に触れると、ヨーロッパのスラム街に住むイヴは「賭けゴルフ」で生計を立てていた。しかし、彼女や仲間が住むスラム街が取り壊されることになる。7話では彼女は「賭けゴルフ」でこの街の住人を助けようと、命をかけた勝負をする。その対戦相手が、今までマフィア絡みの試合を紹介してくれていたローズ・アレオンだった。

その7話ではローズ・アレオンとの一騎打ちとなるのであるが、今回触れるショットは試合中の出来事ではなく、試合前のAパート前のアバンタイトルにあたる。

オープニング明けすぐに映されたのはなんと亀である。「1年前」というテロップとともにノロノロと画面を横切る亀が画面に映されている。まず、いきなり亀が画面を占有しているため、視聴者は「え?」と驚くが、その画面内で話し声が聞こえてくる。よく後ろをみると、今回の試合で対戦相手になるローズ・アレオンと、その部下・アンリが対戦相手のイヴについて話しているようだ。

つまり、このショットでは、①亀が横切ること ②ローズとアンリがイヴについて話す という2つの出来事が起きている。もちろん、このような演出はこれまで存在しなかったわけではないが、ふつう物語に絡まないものを画面に映すことは多くない。2つの出来事を同時に映すということは、工数がかかってしまうので、経済的な理由から選択しづらい演出である。しかし、このショットが面白いのは、2つは関係ない出来事ではないということだ。それはどういうことか? 

こちらは次のシーンになるのだが、亀と亀がエサ(葉っぱ)を取り合っているように見える。後方ではローズとアンリが話しているのだが、2人は引き続きイヴの話をしている。ここ1年でイヴの活躍がめざましく、アンリがこちらの場を荒らしているとローズに文句を言っているのだ。つまり、この亀と亀のエサ(葉っぱ)の取り合いは、彼女たちが話している内容(縄張り争い)を画面で表現していることになる。1つの画面で2つの出来事が起こりながらも、実際には1つの出来事について描かれている。

「1年前」というテロップと画面を占有する「亀」は、イヴとアーロンの関係を示すために描かれているともいえる。「ウサギとカメ」の寓話があるように、亀をイヴと見立てるとウサギはローズということになる。「1年前」のテロップは、イヴがローズを追い抜く月日を表現しているともとれないだろうか。もちろん、ローズがウサギだと描かれていないのでこれは推測の域を出ないが、そのように考えられるショットだということだ。Aパート以降、ローズとイヴが賭けゴルフで戦っているところを見ると、アバンタイトルでこの挿話の物語や展開を説明していることになる。

ここでは2つの出来事が起こりながらも、それにより物語強度を高める経済的な演出といえるだろう。私がこのシーンが好きなのは、先に述べたこと以外にも、まず画面に驚きがあること。そして、作り手の遊び心が感じられるからである。ショットを見ていて純粋な驚きがある。私が映像を見る上でいちばん嬉しく感じることだ。「アニメーションにおけるショットについて」は連載にしていき、今後、実写とアニメーションの差異など考える場にしていきたい。