つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーション、音楽のこと

ギヨーム・ブラック『7月の物語』

オープニング。長めに映されたショットで、階段から降りてきた少女が踊り場の壁をひたすら殴る蹴る場面を捉える。しばらく壁との攻防が続くと、階段から彼女の知り合いらしき女性が降りてきて声をかける。スタンダードの画面効果か、彼女らの位置関係にメリハリがつく。また真ん中に建てられた支柱が彼女らを分断するかのよう。階段から降りてきた女性が怒っている理由を聞く。次のカットではその女性のアップショット、そして怒っていた女性との切り返しが始まる。壁を殴っていたショットもさることながら、大胆に? というか、長めのショットからアップショットへのタイミングのよさ。決していやらしくない程度のダイナミックさを味あわせ、二人の関係をロケーション(階段)とスタンダードの画面で演出してしまうギヨーム・ブラックには惚れ惚れさせられる。また約7~8ショット目に怒っていた彼女が待ち合わせをしているシーンがある。先ほどの会話の流れでは話していた女性はこれないはずだが、誰を待っているのか。誰を待っているかなんかは二の次であり、彼女が傘(だと思うが自信がない)を落とすと次のショットに移るといった編集の心地よさ。一見するとバカンス映画に見えるこの映画は実に巧みなショットと編集によって構成されている。でなければ、フェイシングをしている彼に近づきすぎて危うく剣先に触れそうになるショットや、その練習中にアクシデントが起こるショットを捉えることはできないだろう。決してバカンス=ゆるさ、ではなく想定外の自体が起きるといったことと、そのハプニングに対応する身体についての映画である。

それと併映された『勇者たちの休息』を見ても明らかなように、彼の映画には何かが繰り返し描かれていたり、何かと何かを対比させることが数多く見受けられる。ナンパしてくる男の彼女と、ナンパされる彼女の顔は広義の意味で似通っているし、水上スキーで失敗して「足首折れた」と川から引き上げられる女性は、ナンパしたことがバレて川に突き落とされる男が必死に桟橋に上がろうとする彼のショットとそっくりだ。彼女に「勘違い」された彼女は柔道で転がされ、フェイシングでミスった彼女は草の上に転がる。「勘違い」は2部でも同じく、何事の説明もなく始まったオープニングショット。恋人同士の関係にも見えるが、寝ている二人のうち先に男が起き上がり、彼女の胸に触れようとする。しかしギリギリ手を触れず、彼女の寝顔を見ながら自慰にふける。そしてすぐ後に彼女がいきなり起き出し、彼は股間を必死に隠し、出て行く羽目になる。ここでもハプニングが映画に運動を与えている。ノルウェーに住む彼とのテレビ電話を終えて、外出する彼女。そしてその彼女に目をつける青年。気がつくか、つかないか、のギリギリの距離感を保ちながら彼は近くが、ついてきていたことがバレバレだったことがわかる。花火に誘われた彼女は部屋に帰り意気揚々と準備をするが、ここで朝のマスかき男が部屋に入ってくる。ナンパされた彼がバイクで迎えに来たところで、マスかき男も窓から彼を確認する。どうも「勘違い」を誘発させる窓=フレーム内フレームによって「お前は誰だ?」となったマスかき男はバイクの彼に俺は彼氏だと言い張り、彼をぶん殴って血だらけにしてしまう。そこでもう一人の男が登場し、彼の鼻は折れていないと診断する。思えば1部でナンパ男が足首を折れていないと診断したことも忘れてはならない。

彼はナンパ男だ。血だらけになりながらも彼女にキスを迫ろうとするのはさすが、というべきか。ここで見ておかなければならないのはマスかき男も彼女に触れようとするが、触れられない。このナンパライダーもギリギリのところで彼女に触れられない。もちろん国にいる彼氏とも肌と肌は触れ合うことはできない。しかし、お互い何も感情もない酒場のノリのときだけ肌と肌が接触する。「勘違い」と「ハプニング」はセットで繰り返されながらも、ダンスシーンで積極的に彼と踊りにいった彼女は何を思ったのだろうか。いや、そこに行動規範はなく、彼を思う彼女が介入し、そしてドアを開閉させて外に出て行ってしまう、といった瞬間的なハプニングを捉えるために存在したとしか思えない。夏の終わりを暗示させるような花火が寮内に響き渡り、ひとつのニュースが流れてくる。廊下を捉えたショットはどれも美しいが、夏の終わりを際立たせるように花火の音が廊下に共鳴し、そこには何かがあったけれど、何もなかったのではなかったのであろうか? とも思わせるような空虚なイメージを思い浮かばせる。彼女がマスかき男に最後にキスをして別れる。その男の孤独さは『女っ気なし』を少し思い出させる。何もかもうまくいかなかった最終日を味わい去っていく彼女の背中に、私たちの視線が向けられる。

ギヨーム・ブラック監督『女っ気なし』DVD

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