つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

Xi Chen『鶏の墳丘』(2021)

Xi Chenの『鶏の墳丘』を見た。国内では昨年の新千歳国際空港アニメーション映画祭にて公開された作品だったが、1月7日に1度だけ渋谷イメージフォーラムで公開された。幸いにも見ることができたので、だいぶ時間が経ってしまったが感想を置いておきたいと思う。Xi Chenは中国のアニメーション作家だ。詳細については以下URLから確認いただければと思う。

tampen.jp

jp.ign.com

 

私は2020年の新千歳空港国際アニメーション映画祭で『New Furniture of Little Swallow』『Carrot Feederを見て「やばいアニメーション作家じゃん!」ととても興奮したのを今でも覚えている。以下セルフ引用。

事前にXi Chenの作品やばいって話を聞いていたのだけど、これは今年見た映像作品でいちばんやばい。面白すぎてやばい! ではなく、言語化が難しい。オライリー系の簡素な3DCGアニメーションなのだけど、キモさを全面に押し出しているというか、3GCGのキモさみたいなものをめちゃくちゃ感じる。多分、これを実写でやるとそりゃもっと絵的には気持ち悪いんだろうけど。実写作品がいつもリアルを与えてくれるわけではなく、なんらかのフィルターを通すことで素面を「見る」ことができる。この場合、アニメーションで採用されたマテリアルを直に感じられているのではないかと。確かにオライリー系ではあるのだけど、オライリーの方法論だけを採用しているのではない。あくまで方法を採用しただけではないか。例えば、誰でもいいけどリアルに人付き合いをして、その人の素面を知りすぎることで不快に思うこともあるでしょう、逆に触れないことが正解なんてこともある。ただ、Xi Chenはそれを否定する、すべて見ろと。これは検討が足りないので言い切れないけどなんとなく気がついたというか、雑感。他の作品も見てみたいと思った。 

paranoid3333333.hatenablog.com

そう、あくまで私の解釈だが彼の作品を見ていると映されているその素面を「見ろ」と要求してくるように感じられる。アニメーションは記号であるけれど、その記号の表面/意味を一変にのぞいてみろといわれているような感覚に陥る。それはとてもグロテクスな行為のように思えるが、しかし、ただ見るだけでも難しい。この画面を見続けることは暴力的なものを直視するような行為と似ている。特に今回の長編作品『鶏の墳丘』は、画面は、記号は、思考は、すべてが流れるように考えさせる暇もなく進んでいき、一度見ただけでは何が起こっているのか、どんな物語なのか? といったことを理解するのも困難だろう。私も物語を追うことも、画面も追うことさえままならなかった。上映後にtampen.jpの田中大裕さんと批評家の塚田優さんの対談がなければ、さっぱり物語はわからなかったと思う。以下、簡単に私がTwitterに殴り書きした感想をまとめる。かなり乱雑な書き方をしているので、物語面だとかは先のURL等を追って補完いただければと思います。

まず『鶏の墳丘』驚いたのはアニメーションの表現方法(主にアニメート)が多彩だったことだ。これまで彼のアニメーションを見ていて素朴に思っていたことは、デヴィッド・オライリーの『アニメーションの基礎美学』*1的な簡素なCGによるアニメーションっぽいという意見を持っていたのだけど、実写合成、大胆なカメラワーク、緻密に作られたビジュアル、今まで通りの簡素なアニメート、とさまざまな表現方法がひとつの作品の中で共存していることだった。(以下Xi chenのvimeoなので参考に)

vimeo.com

ライティングもこれ実写だよな? と考えながら見ているとすぐにそのシーンから離れ置いてけぼりにされる。「方法論」でアニメーションを作るのではなく、もっと自由自在に画面を占有していく。開始数分でブラボー!! といってしまうほど素晴らしい映像体験だった。あるシーンでは実写だよな? と勘ぐりながらみていると、大胆なズームイン/アウトに運動に気がつくと次のカットに映ってくる。カメラは大胆に動きつつも、フィックスからのジャンプカットも挿入してくるので油断ならない。スターウォーズなどを連想させるようなビジュアルであったり戦争が勃発しているが、それもどこかズラされているような感覚になる。一応シーン説明というか詩? のようなものは途中で挿入されるのだが、全体として俯瞰するとこれはなんだ? といった感覚になるし、断片みてもわからない、と思うこともある。全てはすごいスピードで過ぎ去り、私たちの感覚を刺激する。約90分の作品であるが、私たちに都合よく作られてはいないので、今何分経過したのだろうかといったことさえもわからなくなる。まるで「映画」とは似ても似つかない「映像」としか言いようのない作品なのだ。

なかなか商業ベースでかけることのできない作品なので、またどこかで見ることができれば嬉しいなと思う。

*1:デヴィッド・オライリーによるアニメーションについての文章(以下参考URL)

デイヴィッド・オライリー「アニメーション基礎美学」(1)

2021年映画ベスト10

コロナ禍ということもありましたが、例年通りあまり新作をガツガツみることに意味を見出すこともできなくなり(理由はさまざまですが)、今年は新作だけではベストができなかったので初見・旧作を含めたベストにしました。

  1. モード家の一夜
  2. ミッドナイト・ファミリー
  3. ハズバンズ
  4. 川崎競輪
  5. 機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ
  6. サイダーのように言葉が湧き上がる
  7. マリグナント
  8. オールドジョイ
  9. 死の十字路

『鱒』と『雪崩』をしばらく積読してしまっていて、重い腰をあげて見たらどちらもめちゃめちゃ面白かった。とくに『鱒』はわけわかんねーって面白さもあるし、東京放浪映画としては今年に『夢の涯てまでも』も見ていて、東京放浪イヤーだな〜と思った。や〜と見たモード家の一夜はブルーレイにて。『ミッドナイト・ファミリー』は新作だけど、U-NEXTで鑑賞。『ハサウェイ』は最初におばさんが「ぎゃー」って叫んで壁にぶつかるシーンで優勝。新作だとあと『サイダー』これは爆泣き!『マリグナント』はよくある話に驚きが添えられていてよかった。特別面白いわけではないけど、『オールドジョイ』の車窓から見える森には癒された。次点は『love machine』、『ヘカテ』、『さよなら私のロンリー』あたりかな。

 

2021年アニメーションベスト10選

霊障』告知ぶりの更新…。今年は『霊障』もあり例年よりアニメを全然見れていないので、話数ベストなんて到底できないけれど、面白かったアニメについては書いておきたいよねってことでひとまずレギュレーションフリーで選んでみました。順不同です。

 

  • 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』第8話「お見合いしてしまった・・・」

絵コンテ・演出:戸澤俊太郎 作画監督:服部憲知、松田萌、上田彩朔、木村拓馬、小幡公春、井本由紀、高橋美香、徳田夢之介

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絵コンテ・演出で見せるアニメここにあり!といった構図でガンガン攻めるタイプの挿話。テレビアニメってこうだよなって初心を思い出す。

 

絵コンテ:藤井俊郎 演出:臼井篤史 作画監督:芝田千紗

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スーパーカブのこのカットまるで心霊ビデオのようにすっっと映り込むんですよね。特にこの話数はなんども校庭への遠景を挟んでいるからより効果的。しかも前景に映る彼女がもちろんピンボケしていてカメラが意識されているのと、1秒程度のカットが心霊のように見えてきてしまって本当にすごいカットだと思った。こういう驚きのあるカットが欲しいんだよねって。

 

  • 『Sonny Boy』第4話「偉大なるモンキー・ベースボール」

絵コンテ:川尻善昭 演出:イムガヒ 作画監督:原科大樹

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8話も捨てがたいけど、物語をだらだらしゃべりながらその話とは関係ないようなカットが続く・・・って演出に弱い。サニーボーイ全体にいえるけど、これはアニメなんだって見ていて思うのが、遠景で人物をぼやっと描いていたり、逆に近い距離のカットはきちんと描いていたりする。アニメならではの表現で映像を作るんだって意識があって好きなんですね。

 

  • 『MARS RED』#01「陽のあたる場所」

絵コンテ:山門郁夫 演出:羽多野浩平 作画監督:山田勝哉

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特に順位付けはないけど選ぶなら今年のベスト。なんといっても話が好きすぎる。大正ロマンと吸血鬼のお話。その中でも1話はカットの切れ味もあるし、物語的にもやばすぎる。一度見たら1話に戻るとまたこみあげてくるものがあり・・・

 

  • 『SSSS.DYNAZENON』第10回「思い残した記憶って、なに?」

絵コンテ:五十嵐海 演出:佐竹秀幸 作画監督:五十嵐海

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冒頭、視線誘導のカットの連なりから他の話数とは気合の違いを見せつけていた(8話?くらいから急に面白くなったねダイナゼノン)。作画と物語が密接に絡み合う作画アニメ!な一品でさいこ〜でした。

 

  • 『PUIPUIモルカー』5話「プイプイレーシング」

絵コンテ・アニメーター:佐藤桂、見里朝希 

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ガンバの冒険』や『劇場版とっとこハム太郎 ハムハムグランプリン オーロラ谷の奇跡 リボンちゃん危機一髪!』が好きな私はネズミが走るアニメは大好きなんですね。ガンバからハム太郎、そしてモルカーへ・・・引き継がれしネズミたちの物語。

 

絵コンテ・演出:若林信 作画監督:高橋沙妃

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1話の心霊ビデオ(児玉和土)よろしくなアニメーションには痺れました。怖いし不気味で面白かった。

 

  • 『アリスインデッドリースクール』

監督:山内重保

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山内重保ここにきたり〜!終末xゾンビx山内重保と相性が悪いわけがない。本編の『ゲキドル』も山内重保が入っていましたが、あまり濃度が高くなかった。しかし、こちらは濃度100%の山内重保なので大満足。

 

  • メガロボクス2』ROUNDO13「翼ある者は翼なき者を背負い、翼なき者は翼ある者を祝福する」

絵コンテ:大橋誉志光 演出:小坂春女 作画監督:金田尚美、矢崎健二、清水洋、伊東英樹、小田真弓、嘉村弘之、中熊太一、野口征、恒能地清、早川淳一、村松尚雄、水村良男、WHITE LINE

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喪失-再生、そして継承の物語。ギアレスジョーが「ギアレス」を捨てて、一人の男を背負ってただの「ジョー」として戦う。2期最終話だからできるシリーズものの強みでしたね。

 

  • 『リスの盛り上がり』

監督:Xi Chen

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最後は短編アニメーションから。Xi Chenの短編。リスがどんぐり集めて・・・みたいなアニメーションだけど、どこか気味の悪さがでているのはシーチェンの作品だな〜と感じる。新千歳オンラインで数本しか見れなかったけど、これとStatues GameとSteakhouseが気になった。また、シーチェンの長編が来年1日だけイメージフォーラムでかかるようで、これには駆けつける!って感じです。(以下リンク貼っておきます)