白石監督ひさびさのフェイクドキュメンタリーということで、劇場公開初日朝イチから映画館へ駆けつけて鑑賞し、パンフレットをゲットしてきた。結論から先にいうと、白石監督のフィルモグラフィー のなかでもかなり面白い。ベルギーのフェイクドキュメンタリー映画 『ありふれた事件』(1992)を見て、「この手法ならビデオで撮ればお金をかけずに面白い映画を作れる」と思った白石監督は、自主制作の『暴力人間』(1997)をはじめとして、多くのフェイクドキュメンタリー映画 を作っている。手がけたフェイクドキュメンタリーは日本の映画監督の中でもダントツに多いのである。*1
フェイクドキュメンタリーというと、台湾ホラーで話題となった『呪詛』やナ・ホンジンがプロデュースした『女神の継承』などが記憶に新しいが、フェイクドキュメンタリー視点で見ると「これって誰が撮影しているの?」な神視点があったり、劇映画的な編集が見られフェイクドキュメンタリーというより劇映画的な作品に感じてしまった。フェイクドキュメンタリー特有の「最初から嘘って言っているから面白い」という感覚が気薄な作品になっていた。この2作に関しては、白石監督も自身のYouTube で触れているので参考にされるといいかと思います。
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さて、『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』 はそのノイズを見事に避けている。投稿者から送られてきた映像を調査するため、投稿者にインタビューする様子を撮影する目的でカメラを回しており、POV作品*2 でありがちな「こんな状況でもカメラを回す?」といった事態を見事に避けている。また、何度かカットが変わるが、ほとんどのシーンがワンカット風で撮影されており、意図的に編集していると思わせない配慮がされている。それによって臨場感ある作品となっているのだ。本編前の短編『訪問者』では、監視カメラの映像から始まるが、不気味な訪問者が事務所に入ってくると「あ! ほら、そこそこそこ!」と白石監督にカメラを向ける指示をする。それにより「カメラを回していても不自然ではない」といった状況を作り出すことでノイズにならない。*3
先のYouTube で『女神の継承』のキャラの薄さについて指摘しているが、本作では優秀だが口が少し悪い助監督、なぜかショットガンを持って行方不明児を探すスーパーボランティア、金髪ホスト風のカリスマ霊能力者……と、バラエティ豊かなキャラク ターたちが登場する。本作で白石監督の過去作として登場する『オカルティズム』は劇中で13年前に作られた作品という設定になっているのだが、これは白石監督の『オカルト』(2009)と同じ年になるため、作中の『オカルティズム』は『オカルト』の目配せであることがわかる。
また、『オカルト』の主人公役・宇野祥平 が、今作でも同役名の江野祥平として出演していることからも、白石監督作品でよく見られるパラレルワールド や並行世界的なノリがある。*4 一見、作品内の『オカルティズム』の続編のように見えるが、短編で「まりあさんの方が終わったら……」といった発言があることから、続編としては作られていない。現実世界での『オカルト』と『オカルトの森へようこそ』も似たような関係性なのだろう。
ここからは具体的にどこにグッときたのか列挙していきたい。
白石監督は自主制作『暴力人間』からフェイクドキュメンタリー作品を撮っているが、劇場公開作品としては『ほんとにあった!呪いのビデオ THE MOVIE』(2003)が初めてである*5 。『ほん呪』からスタートした心霊ビデオ・ドキュメンタリーというジャンルは、視聴者から投稿されてきたビデオをスタッフが視聴して検証するというシーンから歴史がスタートした。*6 本作ではまず『訪問者』では、化け物のようなものが映るのであるが、最後にビデオが巻き戻されもう一度再生するという心霊ビデオのお約束が用意されている。心霊ビデオでは最初にビデオを再生して、「おわかりいただけただろうか」と映像を再度流す……といった構成をとることが多い。
そして本編においても、まず、投稿者から送付された映像からスタートする。そこでは何やら隕石らしきものが落ちてきて、女性が化け物に襲われる一部始終が映されている。その映像は作中で白石晃士 (役名:黒石光司)がスマホ で見ていた映像であり、投稿映像をスタッフが検証しているという心霊ビデオのお約束スタイルから始まっているのである。『ほん呪』を手がけた監督のファンとして、こういった心霊ビデオのお約束から進行する映画にはニヤッとさせられた。
また、心霊ビデオでは頻繁に「どれが霊障 なのかよくわからない」といったことが起きる。特に初期の『ほん呪』は映像が荒いため、「おわかりいただけただろうか」といわれても、「あれ、こっちだったの? じゃあこっちは霊障 ではないのか?」と戸惑うこともあった。そのため、制作者たちが意図している霊障 と、意図していない霊障 みたいなものが同時に画面に映ることがある。もしかしたら、その言及しない霊障 もスタッフが遊び心でインサートしている霊障 なのかもしれない。そういった画面上でのあそび心が心霊ビデオにはあるのだが、本作においても、白石監督が助監督を撮影しているときに、車窓の奥の方でとても長いビニールのようなものがはためいている様子が記録されている。もちろん、作中での言及はないが、これから起こることを暗示しているかのように、それは不気味にはためていている。
先に書いたように、本作は『オカルト』への目配せがいくつも存在する。それ以外にも彼の作品によく出る「霊体ミミズ」も当たり前のように出てくるし、助監督の名前が「市川」なのは、どうしても『コワすぎ』シリーズのAD市川を連想する。また、『コワすぎ』の工藤D役・大迫茂生もちょっと様子がおかしいカルト信者役で登場する。カリスマ霊能力者が名前を聞かれるシーンで、「ねーよ」と答え名前がないことで「ナナシさん」と呼ばれるのであるが、金髪でカリスマ霊能者、そして「ねーよ」と答える彼を見ていると『カルト』(2013)の「NEO」を想起せざるをえない。「ねーよ」=「NEO」の図式が浮かび上がるが、パンフレットで白石監督は意図はなかったと否定している。その意図していなかった回答にまたグッときてしまった。
ここまで書いていると白石ユニバース主張がうるさいように思えるかもしれないが、それだから面白いといった構造にはなっていない。初めて白石作品を見た人でもすぐ入り込めるような設定になっているし、登場人物が過去作品に対して言及することや、思わせぶりな態度をとっているわけではないので、そこまで主張は感じない。白石監督のファンでもそうでない人でも楽しめる、優れたバランスで成り立っていると感じた。
この作品の面白さのキモはなんといっても、投稿者にインタビューしに行くところから常に映像が動き続けていることだろう。本作は120分程度の上映時間であり、普通の劇映画であれば一般的な上映時間であるが、心霊ビデオが通常1本5分くらいのものから20分程度の作品が多いことを考えると、長尺な作品なのである。しかし、本作はダレ場がほとんど存在しないことから、「え? もう終わりなの?」と思った。
そう思わせるのは、序盤から中盤まで常になんらかの霊障 に巻き込まれて、追ってから逃げる構造をとっているからだろう。ここで少し展開を振り返っておきたい。大雑把だが物語展開は以下のようになる。
投稿者の家にインタビューしに向かう (山道を歩く宇野祥平 に出会う)
投稿者の家でインタビューする (霊障 に遭う・宇野祥平 が助けに来る)
宇野祥平 に連れられて霊障 から逃げる
バスに乗り霊障 から逃げる (ナナシと合流する)
バスを失いナナシと一緒に霊障 から走って逃げる
投稿者の三好麻里亜が走って逃げてしまう (追われる側から追う側に)
三好麻里亜が入っていった宗教施設に潜入し、信者たちとの戦闘が始まる
1の時点から7に至るまで、彼/彼女らは常に追ってから逃げたり、追う側になったりと、常にどこかへ移動していることがわかる。映像が動き続けていると「何かが起こるのではないか?」という期待を膨らませ映像に集中できる。また、心霊ビデオを見る際には「この映像のどこかに霊障 が映っている!」と思いながら映像をみるので、真剣に映像と向き合う必要がある。もちろん、心霊ビデオでなくても真剣に映像と向き合えばいいのであるが、常にロケーションが変わるので映像と向き合い易い作品といっていいだろう。
そういった映像を見る快楽が本作には詰まっているのだ。
その他に好きだったポイントを箇条書きします。
白石監督がカメラにナイフを設置するが、マイケル・パウエル 『血を吸うカメラ』(1960)オマージュで最高。
宗教施設が出てくると『V/H/Sネクス トレベル』ギャレス・エヴァンス を思い出して最高。
宗教施設を広々と撮影しているところが最高。特に最初に儀式の場所までいって、侵入者が現れて入り口の広間に戻り、さらに戦闘になってからも一旦引いて施設内を広々と使っている。
ナナシによるアクションシーンが広々としたロケーションでロングショットで撮影されていて楽しい。投げられた刃物をショットガンで打ち返すシーンや、肉弾戦になっても玄人な動きを見せる江野祥平が最高。
長くなってしまったが、心霊ビデオ・フェイクドキュメンタリーは「嘘を本当らしくみせること」が得意なジャンルである。本作で起きるような出来事は「嘘っぱちにもほどがある!」と思えるかもしれないが、その嘘っぱちの世界にまんまと入り込んでしまう仕掛け作りがされている。本作はフェイクドキュメンタリーであるが、まるで普通の劇映画のように映画の世界に入り込んでしまうのではないだろうか。何より、白石晃士 監督のひさびさフェイクドキュメンタリーこれは最高でした。