つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

音楽雑記01

音楽レヴューっぽく音楽のことについて書くより、誰かに話すように、または日記のように書くほうが自分に合っているような感じがしているのでってことで。

さて、ご存知FRIENDSHIPの2ndフル『Undercurrent』これが彼らの新境地というか、ベスト作ではないだろうか(あくまで音源としての)。EPや1stが力の限り黒い音の塊(音圧)で他を寄せ付けないパワーでねじ伏せている印象があったが、今作めちゃくちゃ頭のいい作品になっている。それはもちろん彼らのフルスロットルのパワーがオレンジのアンプに注がれて、吐き出された音にはまちがいないのだが、全てが一斉に注がれた過去作よりもより空間を意識して力が分散され輪郭が生まれるサウンド。Su19bの2ndなんかが近い表現になっているように思う。印象的なギターリフ+Dビートに、次はブラストビート合わせてテンポチェンジしたり、身体的に心地いい。10曲さらっと飽きないで聴けてしまう。そして今回ドラムの音がズバ抜けていい。#2「Vertigo」のイントロや#7「Plague」を聴けば、その存在感にダンスしたくなることまちがいなし。あと思ったのはFEINDSHIPって一見ゴリゴリのハードコアでモッシュを誘発しそうな音楽なんだけど、わかりやすいモッシュパートを必要としていないよねバンドとして。結果的に身体が動く/動かないは別として。まあ、LIVEではボーカルの人結構突っ込んでくるので衝動的な音楽ではあるんだけど。

www.youtube.com

それでこちらも新譜UNFADEDのST!(動画はEPの)たぶん、バンドとしては根底にジャパコアがあるとは思うんだけど、そこからネオクラストに昇華されたサウンドを引き下げてきた。パンクプロパーじゃないので歴史的文脈にはまだまだ疎いのだけど、ネオクラストにもかっちり音出したり、メロデスっぽいバンド(Khmer特に初期)、メロメロなバンド(Martyrdod後期とか)、RAWよりのsekienとか荒々しいEkkaia(2ndとか)いろいろあるけど、UNFADEDが面白いのは叫んでいるのにわりと何歌っているかわかるってことと、#4「果て無き旅」とかドラマティックな展開で最後の方とかメロディで高まる感じやばいんよね。あと#5「彷徨」のRAW感満載のギターリフとかやられる。

そんな感じで若手がかなりいいアルバム作ってていいことだねって本当思う。そのおかげでNightmareの新譜1回しか聴いていないのでまた聴きましょうね。

2018年に取りこぼした音楽というか殴り書きした雑記の一部

ブログをひと月書かないとなかなか文章が思い浮かばないもので、そのためのリハビリというか近況をふらっと……といっても近況なんて何もないので2018年に取りこぼして2019年になって聴いた音楽さらっと書きます。

open.spotify.com

早見沙織が歌がうまいことは重々わかっていたつもりだったのですが、本当に「つもり」になっていたのだと2nd『JUNCTION』聴いてびっくりした。彼女のイメージ的に#13『新しい朝』のような曲は理解できたんだけど、#4『夢の果てまで』なんて完全に歌謡曲だ。無理しているのではなくて曲にきちんと声が乗っている。ノリがあっている。ポスト坂本真綾かな? というルートを考えていたがこれはえらいことになっている。ここまで歌い上げられるとは思ってもみなかった。最初の4曲がインパクトがあるのでそのあと若干印象が薄れてしまうが、曲の方向性が違うのでこれはこれで問題ない。作品のレヴェルは保ったままだ。昨年のダークホースだといえよう。

これは昨年末のコンテンツベスト3ツイキャスでも話題なったのだが、歌える声優が増えてきてポスト坂本真綾はいいとして、ポスト水樹奈々問題が浮上する。先日、「NANA MIZUKI LIVE GRACE 2019 -OPUS Ⅲ-」に参加してきて少なくてもあと5、6年はポスト水樹奈々の候補さえ生まれないのではないか? と思わせるほどの圧倒的な強さを見せつけられた。水樹奈々は「暴力」の属性において他を圧倒する。本人は77歳になっても歌っていたいといっているくらいなので、今後のライバル相手がどう出てくるかといったところに注目していきたい。

www.youtube.com

昨年はWORLDの編集盤がリリースされたり、Sissy Spacekが来日したりとノイズグラインド界隈は盛り上がっていたが、西之カオティックの1st『tsumetai konton no kuni』が決定的だったか。ノイズグラインドをベースとしながらも、パワーヴァイオレンスも吸収し心地いいショートカットグラインドを披露する。

それとノイズコア/クラスト関連だと大阪のZYANOSEの4th『Cahos bender』。CD盤はライヴ音源も入っているお徳用。ノイズ、パンク好きにはマストアイテムかと。

完全に2018年から外れるけど、羅生門の新譜が相変わらずサイコー。前作よりギターが刻んでる?印象があるけど、Voはよりガーゼよろしく、というかジャパコア精神みなぎっていて素晴らしい。

好みとしては前に出たデモの方が好きなんですが、片面12インチという粋も創作(盤)から感じられてグッド。音もさることながらジャケットも盤の仕様もいいですし、フィジカルにこだわるところ、その辺りにこだわりを持つのは強みになると思うんすね。本もテクストありきではありますが、フィジカルの魅力として装飾に力入れるところ好き。

あとなんといってもRed SheerとSunday Bloody Sundayのスプリットね。どちらもやばいですが、Red Sheerの鬼気迫るボーカル最高だし、音が終末感でていてぐうの音もでない。1st依頼そこまで追えていなかったけど、こりゃやばいね。2019年の採れたての音。今年のスプリットはこれが水準となると戦はきびしいもんだ。

杉田協士『ひかりの歌』

のれんをしまう店員。ほんのりと光が透過されるすりガラスのドア。まかないを食べ、一人の女性が店を去るのであろうか、多すぎない幾つかの言葉が交わされる。髪の長い女性と短い女性。髪の短い女性は高校の臨時教師として美術に関わっているようだ。髪の長い女性はどうやらバンドで歌っているようである。そして彼女はこれから旅に出るという。『ひかりの歌』は4つの短編(短歌)がひとつの映画を形つくる。そしてどの物語も映画の説明(=理由)に翻弄されることなく、そこにたまたまカメラが置いてあったかのように世界の一部を切り取る。

理由や意味づけから自由であり、既存の物語映画のような劇的な展開も皆無だ。臨時教師の彼女が買い物袋を持ち、同僚の家で料理を作り一緒に夕飯を食べる。彼女が彼を好きだとか、彼が彼女を好きだとか、そういった類型の物語ではなく、ただ一緒に食事をする。好きな女性がいる同僚は臨時の教師に背中を押されて、その彼女との食事の約束を取り付ける。野球部の青年は臨時教師に告白をして、日が暮れるまで彼女の肖像を描く。青年の友達は肖像を描いている間、空に向かってボールを投げて一人キャッチボールをしている。それを見た同僚の彼はその彼とキャッチボールをする。ここまで見ていてわかるのがコミュニケーションが淡々と遂行されること。教師が校舎と校舎をつなぐ外の廊下から野球部のボールが浮かんでくることを目撃するように、視線はいつでもどこでも交わされるかもしれない。描くことでコミュニケーションを求めた臨時教師はある女性から電話がかかってくると、彼女の姿を描く野球青年をそっち退けで電話越しの歌を聴き涙する。映画は理由を求めないのに、彼女の反応からひとつの意味を見出してしまう。

4章で長年行方知らずだった夫(と思われる男性)が中年の女性の元に帰ってきたとき。彼が運転する車の窓から見えるサイドミラー越しに映る過ぎ去る幾つかの車が、それまでの彼-彼女の関係を示しているように見えてくる。それには4章までに好きな人との別れ、臨時教師の期間満了、田舎に帰ってしまう想い人、父親の歩いてきた道を辿る——「別れ」の物語(短歌)が積み重なっていたからなのかもしれない。だから、彼らが並んで食事をする、「ただいま」-「おかえり」と交わされた言葉にこみ上げてくるものが生まれる。

2章で好きな人から告白されず自分もまたその人に想いを伝えることもできていないのに、自分は好きでもない人から告白される。意味を信じてしまうオロナミンCや、意味に見えたハグが次のショットで意味から慣習に変わる時、彼女はどう思ったのだろうか。その幾つかの出来事によって彼女を無限に走らせるし、暗闇の中で自販機の光はまるでプラネタリウムで見た星々の光のように輝く。彼女が暗闇(=フレームの奥)へ消えていく姿はなんとも寂し気な背中であったが、自販機の光を浴びた彼女もまたいつか輝くだろうと想いを寄せる。3章、カメラ屋でたまたまあった人に小樽まで連れて行ってもらい父親の歩いた道を行く。交換されたコートと衝動的に飛び乗った列車。どのエピソードも先にいったように理由が語られず、行動のみで映画を形つくる。

山田尚子論でも引用したけれど、映画はある地点からある地点への移り変わり、その瞬間を捉えたもの/捉えきれないもの(=蠢いているもの)であると信じてならない。

「私はいつも、二つのものの間を揺れ動いていました。[……]映画というのは、ひとつの極から別の極へ揺れ動くなにかなのです」ジャン=リュック・ゴダール『映画史(全)』(ちくま学芸文庫、2012)

映画は理由を必要としないから輝く。コミュニケーション(=視線)が導入されてこそ映画は豊かになる。1章で挿入される自転車に乗る彼らの後ろ姿。彼らがそこで本当に生きているように世界から切り取られたショット。ここに全てが詰まっている。

hikarinouta.jp

 

ゴダール 映画史(全) (ちくま学芸文庫)

ゴダール 映画史(全) (ちくま学芸文庫)