つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

映画雑記01

先日シネスイッチ銀座にてゴダールの『イメージの本』を見てきた。今年はゴダールといいイーストウッドといい高齢映画監督たちの映画が次々に公開されている。『運び屋』は近年のイーストウッドでいちばんよかった。家の中にいるイーストウッドが車の音を聞いて外へ出て行く。そのショット見るだけで映画の息吹を感じたし、ボロボロのイーストウッドとヘリコプターの並走を見るだけで幸せな気持ちにさせてくれるのは流石だ。ただ死ぬとか死なないとか、あのようなかったるいシーンを入れてしまうのはいかがなものだろうか。そんなはずはないと思っていたのだけど。

それでゴダールの話だった。『イメージの本』これは何より楽しい映画だった。エイゼンシュテインとか家が光り輝く中で海岸線を逃げる二人の男女を見て『キッスで殺せ!』やんとか、ラスト付近(というかラスト?)でオフュルスのカメラワークを見て涙が流れてくるとか(あそこでオフュルスずるい!)、ソニマージュじゃんとか編集とか…。前から鳴っているスピーカーがあって、後ろから鳴るのもあったり、上斜めから生っぽい音聞こえたり、楽しい環境下で見れた時間だった。前作もシネスイッチで見たのだけど、あの犬が出てきたので公開時ぶりに再会できた。ゴダールありがとう。

気がついたら平成も終わったらしいが、最後に見たのは積みっぱなしになっていたニコラス・レイの『ビガー・ザン・ライフ 黒の報酬』。ここのところ何かと忙しかったり、メンタル的に疲れる日々を過ごしていてあまり映画を見れていなかったのだけど、ここでニコラスレイを選択して本当によかった。幸せな家庭が精神崩壊からぶち壊れていくといった様を描いているが、それ以上に冒頭の子供たちが授業が終わって駆けていく姿を見て涙が溢れてくる。そこに呼応するのが、夫が病院にいくのに車に乗るシークエンスだよね。柱(ベル)を掴んで離れられない。ここで泣かぬわけがない的な。それと夫が部屋の電気をひとつずつ消していき妻を追い込んでいくシーン絶品。その他にもまるでサイレント黒白映画を見ているかのような陰影使い。とっとと『ラスティ・メン』も棚から出さないとな…と決心。あと森崎東の『夢見通りの人々』も見た。収束していかないことに群像劇のよさがあるんだよね。

ついでに平成映画ってあげておくと…

 

その男、凶暴につき』(北野武、1989)

文学賞殺人事件 大いなる助走』(鈴木則文、1989)

『東京上空いらっしゃいませ』(相米慎二、1990)

『霊のうごめく家(ほんとにあった怖い話 第二夜)』(鶴田法男、1991)

『三月のライオン』(矢崎仁司、1992)

機動警察パトレイバー2 the Movie』(押井守、1993)

学校の怪談』(平山秀幸、1995)

トイレの花子さん』(松岡錠司、1995)

美味しんぼ』(森崎東、1996)

パーフェクトブルー』(今敏、1997)

『TOKYO EYES』(ジャン=ピエール・リモザン、1998)

少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』(幾原邦彦、1999)

ガメラ3 邪神覚醒』(金子修介、1999)

も〜っと!おジャ魔女どれみ カエル石のひみつ』(山内重保、2001)

『名前のない森(私立探偵濱マイク)』(青山真治、2002)

弁当屋の人妻』(堀禎一、2003)

カナリア』(塩田明彦、2004)

マインド・ゲーム』(湯浅政明、2004)

ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』(細田守、2005)

『叫』黒沢清、2006)

『接吻』(万田邦敏、2006)

劇場版CLANNAD』(出崎統、2007)

『彼方からの手紙』(瀬田なつき、2008)

空の境界 矛盾螺旋』(平尾隆之、2008)

マイマイ新子と千年の魔法』(片渕須直、2009)

ゲゲゲの女房』(鈴木卓爾、2010)

『Playback』(三宅唱、2012)

風立ちぬ』(宮崎駿、2013)

邪教(闇動画8)』(児玉和土、2013)

劇場版 魔法少女まどか☆マギカ【新篇】叛逆の物語』(新房昭之、2013)

『夜会VOL.18「橋の下のアルカディア」劇場版』(2014)

『心霊玉手匣4』(岩澤宏樹、2015)

『クニコ(死画像)』(2015)

『ハッピーアワー』(濱口竜介、2015)

『かくれんぼ(ほんとにあった!呪いのビデオ71)』(2017)

リズと青い鳥』(山田尚子、2018)

一応平成なんだからって邦画に当てはめてみたのだけど、じゃあリモザンはなんなんだって感じがあるよね。日本資本も入っているし、何より日本撮影だからいいかなって。悩むのがめんどくさいので一監督一本制度を導入。あれこれ抜けている気がするんだけど、パッと思いつきなのでまた付け足すかも。 

楫野裕『阿吽』

映画というよりも、どこかの部室の片隅に落ちている記録フィルムのような作品だ。8ミリフィルムで撮られた黒白画面は表面上の傷や埃などが、あえてそのまま残してあるような感覚を受ける。そのざらついたイメージが、90年代後半以降の心霊ビデオなどの何か危ういものの感覚と近しい。しかし、物語設定上では3.11以降の出来事を描いているというから驚きだ。まるで10年代の感覚がなく、映像が物語と乖離している。もちろんこれは悪いことでは全くない。こういったズレが映画のひとつの魅力だろう。

傷ついたフィルムの夜に白いシャツの男がひとりたたずむ。ただそれだけで怖いと感じる。女が「かんじくん、かんじくん」と夜ひとりで出歩く彼を探し、電気をつけて、部屋を確認して電気を消す。どこにもいない彼。路上にたたずむ彼。説明描写を最低限に絞るとともに、ショットと次のショットがまるで次元の違う場所を映しているかのような不安定さがこの映画(フィルム)の魅力ではなかろうか。彼が狂った(呪われた)理由が明確に示されないのは描く能力がないのではなく、「怖い」感覚が何が何やらわからないものだから恐怖するからであろう。だからアートなフィルムではなく、心霊ビデオの途中で挿入される恐怖映像の断片的なものが繋がってしまった「怖さ」がこのフィルムの特徴であるといいたい。

そしてもうひとつが都市映画だったということ。少し用法が違うけど『ラブ&ポップ』(1998)などの都市空間の表現方法。そして、アニメ『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』(2000)の掴み取りづらい断片的な感覚。特に『ブギポ』からは物語的な側面、オカルトな雰囲気も似ているなと感じた。確かに形式も違うわけなのだが、例えばテレビ『エヴァ』の雰囲気を『serial experiments lain』(1998)もまとっていたようなといえばいいだろうか。何が何だかわからないけど「怖い」感覚。『死画像』(2015)あたりにも通じるような気持ちの悪さがこのフィルムにまとわりついている。

ラブ&ポップ 特別版 [DVD]

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死画像 [DVD]

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ファン・アンティン『パチャママ』

遅くなったがTAAFで見た『パチャママ』を簡単に。TAAF2019長編コンペでいちばんシンプルに「映画」を目指した作品だったに違いない。村の財宝が奪われ、それを奪い返すために追いかけ、奪還、そしたら今度はまた奪われないように追ってから逃げる…といったマクガフィンで運動が転がっていく感じが面白い。

それと田舎から雲海を経て都市への移動。そして水路から地下への落下、橋から馬が落ちる(橋があったら落ちるのが映画)、悪人は地割れで落下する、主人公は落下しても浮上する…といった上下の演出といいシンプルかつ素早い映画を目指していて好感が持てた。地下でのライティングの演出とか、走り去る伝言男とか細部が豊か。

TAAFでは過去長編コンペの『ロング・ウェイ・ノース』(2015)も見れたのだけど、そちらもマクガフィンで転がしていくタイプの映画で面白かった。『パチャママ』は今度Netflixにて公開らしいので、アニメーションファンならずも映画ファンは見て損がない。