つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

『見えない目撃者』と『クロール-凶暴領域-』

邦画の中ではぜひとも支持をしたいと思わせた『見えない目撃者』。ただ、冒頭の吉岡里帆が失明するシーンに関してはもう少し簡潔に終わらせられなかったものか。あれなら車が事故を起こす(横転する)、そして、次は助けられた吉岡のショット。車どかーん。そのくらいでもつながる。むしろ事故を起こすくらいでもいい。何せ「見えない目撃者」とついているくらいなのだから。といったことはさておいて、きっとフライシャーの『見えない恐怖』のオマージュだかだろうと思ってみれば、全然違った(韓国の『ブラインド』という映画のリメイクらしい)。サスペンス映画というよりも、殺人鬼が生き生きと人を殺していく心地のいいジャンル映画。失明してしまった吉岡がある日事件を目撃してしまったことから始まる。もちろん視覚が損なわれているので、聴覚、嗅覚、触覚で女子高生が誘拐されたと判断するのであるが、もうひとりの目撃者は女性がその車に乗っていなかったという。そこから彼と彼女は共同して女子高生を探すことになり、女子高生が風俗で働いていた、と聞けば、では、怪しそうな風俗に行ってみよう。情報が欲しいとなったらツイッターで情報を探してみようと情報が小出しにされ、定年前の刑事を巻き込んだり、引退後の刑事から情報収集したりと、とにかく物語がスイスイと転がっていくのでとても心地よく見ていられる。また、吉岡が殺人鬼から逃れるシーンや、ブッチャーナイフ片手に襲ってくる描写は大したもので、トビーフーパーを感じるという方々が多いのも頷ける。

悪魔のいけにえ』があそこまで理解のできない恐怖に満たされているのは、何がなんだかわからない物体が一定の距離を保って追ってくる——恐怖が少なからずあるとは思うのだけど、『見えない目撃者』の逃走もなかなかいい距離感を保っていた。視覚情報がないから一発アウトでしょ? と思いながらも、彼女が元警察官といった推理能力、身体能力それに経験を持っているからこそ、一発でグサッと刺さずに宙ぶらりんな時間を作れる。それに最後の洋館でコンセントに水をぶっかけ電気をなくすアイディアもいい。弟くんの鈴の音はわかりやすい演出ではあるが、あの時、拾って彼に渡すことができなかったことが効いていてグッとくるし、何よりもバッチリと銃で殺してくれたのはよかった。殺人鬼も身体が大きくてなかなか不気味な佇まいをしているし、なるべく必要最低限の会話で済ませていた。ただ、吉岡を捕らえて「お前は見えないから視覚でよかったな」(台詞自信なし)と言ってしまうのは映画の敗北。あそこでは一言も話さないでほしい。気になる点はあるものの最後まで楽しめてよかった。

次は『クロール-凶暴領域-』のこと。恐らくプロデューサーや監督は狙ってワニをハンターに選んだんだろうし、実際にいきなりワニが飛び出してくるのはびっくりした。4DXと相性がいいのではないかと。この映画で優れているのは、まず、主人公が親父と喧嘩しているのに、ハリケーン突撃の最中、危険を承知で無理矢理親父の生存確認をしようとすること。また、彼女が親父の家に向かっていく中で「ワニ注意」の看板をさっと捉えること。それと主人公が地下室に侵入するところで、すっとワニの影が彼女の後ろを通り過ぎるところ。それ以降の雨で街や地下室が浸水してしまった後の演出については、そこまでよくはない。基本的にショッカー演出なので驚きはするのだけど、じわじわとワニが迫ってくる恐怖のようなサスペンスフルな演出は感じなかった。確かに家や町中が浸水してしまって、そこで水たまりに入るってのはめちゃくちゃ怖いんだけど、別にワニじゃなくてよくね? と思うのである。それとボートを手に入れたのなら決壊と同時に波乗りで集団のワニから逃れる——しかし逃げた先には10メートルを越す大ワニが!? って絵面みたいじゃんね。父と娘の物語はしょーもないので、全カットでいいと思う。こうでもしなきゃ企画が通らないのであろうか。

ただ擁護するのであれば、この映画では「道具」がその機能をなかなか果たさないことを描いている。家から抜け出すも車は水位が高すぎて運転できない。やっとの思いでボートを手に入れるも、決壊してしまいなぜか家に逆戻り。スコップは地面を掘るのではなく、ワニの頭をかち割る。懐中電灯は救難信号のように使用され、発煙筒はワニの皮膚を焼く(最後には機能するけど)。予期せぬ「災害」についての物語なので、道具が機能しない恐怖も同時に描いていたのだろうか。しかし、ワニ映画なら『レプティリア』や『ブラック・ウォーター』あたりの方に軍配が上がるかなーと。 

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