つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

『寝ても覚めても』と『きみの鳥はうたえる』

 彼女は二度寝る。

寝ても覚めても唐田えりかは上品なお嬢様風の空気を身をまといながら、ちょっと外れた人物を演じている。ふたりの東出はもちろん不気味に描いているのだが、どうも唐田えりかも十分怪物に見えてくる。濱口竜介は期間限定で配信されていた『天国はまだ遠い』ぶりだった。『天国は〜』もそうだが厳格なショットに満たされており、端正な画面でよかったと思う。震災が起きて彼/彼女らが再会して互いの足を捉えていくショットなんて絶品だった。それと彼女が東出1号(麦)と付き合っていたときの花火をするシーンとか、大阪の家を東出2号に追い出されて病気した友人の家へ訪問したところなんかもいい。あとは追い出されるシーンはボールが外から転がってきて投げ返すと後ろに東出2号がいるシーンなんかは絶品だろう。怪奇映画化していたのであの辺りは『接吻』になるんじゃないだろうか? なんてヒヤヒヤするほど。唐田えりかが寝て覚めると毎回高速から降りていて、運動が渋滞や高い堤防(海)なんらかしら阻害されるんだよね。猫といい捨てても捨てきれない残留思念みたいな。「物語」的には周り巡ってよかったって感じなのかもしれないが、画面はそんことを素直に言わせないような終わり方。寝て覚めた唐田を見るとまるで別世界に転生してきたかのような顔をしてる。彼女はずっと夢をみているのかもしれない。夢への旅。

 

三宅唱きみの鳥はうたえる』。濱口竜介に比べるととてもフリーダムな作品に感じた。それは特に前作『密使と番人』がやたら厳格な映画文法で作られていたから余計にそう感じるのかもしれない。自由さでいえば『Playback』もそうだけど、態度的にはショットを撮るより役者を撮ろうってことなんだろうなーと。冒頭、柄本のもとに石橋が戻ってくるところの顔面どアップなんてシネスコで「そこまでやるか?」ってくらいのギャンブルっぷり(これ好きでした)だったし、コンビニの会計シーンとかOMSBがいるクラブのダンスシーンなんてフィクション前提としてこれやるんですか? ってくらい贅沢な時間だった。『寝ても覚めても』にもクラブシーンがあったのだけど、使用方法がまったく違う。雑に冷蔵庫のドアを二回閉める柄本とか、染谷の怖い顔、侯孝賢にはしないビリヤード場。卓球している染谷の身体感覚(手の動き)など、『THE COCKPIT』を撮った延長線(「身体」的な)にこの映画はある。

函館のロケーションもズバ抜けてる。夜の街並みは眼福。ただただ幸せ。それとただ歩いていればいいのに染谷がちょっと道路側に出てみて街並みを映すところとか、最後に本屋の若いねーちゃんと兄ちゃんが朝方抱きつきながら消えていくところとか、「店長大好きです!」っていういい年したバイトの男とか役者を愛しすぎている。二回目見る前に『Playback』を見直したけど、やっぱり役者の「遊び」を撮るに注いでいるほうが三宅唱に合っていると感じた。だからイマジナリーラインなんかいきなりすっ飛ばしてくるんだよね。『無言日記』なんかもそうだけど技術よりも”何か”を持っているんだよね、この人。

 

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