つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

ジェームズ・マンゴールド『フォードvsフェラーリ』

地面スレスレに設置されたカメラ、ドライバーの顔に次ぐ顔。エンジンが回転数を上げトップスピードに。視界は不明瞭となり、気がつくと病院のベッドの上だ。「もう、心臓がもたない」と告げられたマット・デイモンは車に乗り込みフルスピードで病院を後にする。数分のうちに車を運転する姿が何度映されたであろうか。『フォードvsフェラーリ』では、ル・マンでのレースの他にも幾度となく車を運転するシーンが見受けられるが、車=ある目的地点に「移動」することという本来の車の持つ機能から距離をとっている。タイトルから刻まれているように「vs」闘いの映画である(といってもこのタイトルは正直なところダサくないかとは思う)。

フォードによるフェラーリ買収さわぎからもわかるように、確かにフォードとフェラーリによる闘いなのではあるが、実のところこの映画で戦っているのは、ル・マンに挑むマット・デイモンクリスチャン・ベールなのである。クリスチャンベールはドライバーなのでもちろんのこと、自家用ジェットでマスタング新作発表のイベントに登場するマット・デイモンが操縦を変わって、ハラハラドキドキさせるところを思い出されたい。彼が運転するシーン、特に印象に残るのはヘンリーフォード2世を乗せて運転するシーンではないだろうか。それにクリスチャンベールにしかり、彼が妻に内緒でル・マンへの参加を迷っていると彼女はそれを見抜き、車を全速力で走らす。車の持つ本来の「移動」といった機能はさておいて——エンジンの回転数が繰り返し注目を浴びるように——心拍数を劇的に上昇させる機能に徹している。また、クリスチャンベールの妻が現れる瞬間は「映画的」*1な瞬間であった。

「移動」という本来の意味から距離をとると書いたが、クリスチャンベールがフランスへ行くときにはバスの中で外を伺う様子が映されており、そこでは確かに「移動」であった。だが、この前のシーンで彼は息子を寝かしつける際に、フランスに行く時間になったら「起こす」と約束している。しかし、そのシーンは省かれ次のショットはクリスチャンベールがバスの中で外を伺いショットである。この外の様子を伺うショットは、一見するとまるで彼がうなだれているか、寝ているかのように見える後方からのショットで示される。息子を寝かしつける——そして起こす言葉がある——ショットから、誰かが寝ている(ような)ショットで思わず、ハッとさせるシーンを演出している。また、彼がホテルの場所を現地の人に聞くことで「言葉の通じなさ」が浮上し、そこは確かにフランスであると、いつの間にかに移動している、と行ったことを一連のショットで繋げることで理解させる。上/下といった主題も繰り返されるが、ここでは長くなるのでやめておこう。最後、マット・デイモンとクリスチャンベールの息子とのやり取りは蛇足というか、省いてもよかったのではないかとも思う。ただ、多くのアメリカ映画が帰還することを幾度となく描いていたことからも、スパナを息子に託したのは悪くなかったのかもしれない。マット・デイモンが幾度となくハットを被っていたことも西部劇への目配せだったりするのであろうか。

*1:ここでの「映画的」とは映画によく見られる瞬間的なこと。また、そこになぜ現れた=意味が不明瞭でも映画が進んでしまうこと。あっと「驚く」こと。もちろん意味はすぐ後になってわかる。演技である。

2019年 読書ベスト10

昨年読んで面白かったなーと思う本を選出しました。全然思い浮かばねーと思って本棚見てたら案外新刊だけで10冊いったのでヨシとしようと(今年読んだ2019新刊は含めていません)。ただ、本を読むのは好きだけど読書家ってほどではないので小説とか批評とかごった煮で。10冊選んでいるけど順不同でね。

セロトニン

セロトニン

 

ウエルベックウエルベックだね」と友人と会話ししたのを覚えている。ウエルベックを読むと、やはりウエルベックだよね、という安心感と共に生の実感を得ることができる。語り尽くされた言葉でいえば「自分よりもひどい状況の人を見て安心してしまう」的なことなのかもしれないけど、それはそれで醜い態度であるなと思ったりもする。それも含めて自分て生きているんだなーと実感してしまった(なんだこのリスカ的な感想)。ウエルベックは小さな世界の住人にスポットを当てながら、それでも世界と繋がってしまうということを露わにしちゃう。そんなところが好き。

  • 『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』藤井保文/尾原和啓、日経BP
アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る

アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る

 

小説からビジネス書へ飛ぶ…。これすごく売れた本で、わかりやすくデジタル以後の世界を説明した本。例えばAmazonとか通販が今流行っているわけで、実店舗が減るって話なんだけど、実のところ選択肢が増えているので実店舗も敢えて残す。消費者の利便性を考えて何が一番スピーディーでってことを追求する企業もあったりする。みんながスマホ持っているからAmazonだけに絞ったり、人を置かないコンビニだけをビジネスモデルにするのではないって書いていたり。これってコンビニに限らず、たとえば映画業界にもいえるよねってなる。「映画館」もあれば「Netflix」もある、という選択肢。今までのプラットフォーム戦争の先に違うあり方が今では存在しちゃう。儲け方難しいすけどね。

  • 『イメージ学の現在 ヴァールブルクから神経系イメージ学へ』東京大学出版会
イメージ学の現在: ヴァールブルクから神経系イメージ学へ

イメージ学の現在: ヴァールブルクから神経系イメージ学へ

 

そして急にジャンルが変わるのですが…。こちら論文集。その中で、石岡良治『「アニメイメージング」と身体表現——CGアニメにおける「不気味なもの」の機能』に着目。自由自在に横断的に語る石岡良治の著作の中では多分一番かたい文章というか、論文なので当たり前なのですが。3DCGにおける不気味なものを『宝石の国』や『トイストーリー』シリーズなどから検討された論考です。もう少しボリューミーなものも期待しちゃうんですが、いつかまた出てきますかね。

  • 『フレームの外へ』赤坂太輔、森話社
フレームの外へ──現代映画のメディア批判

フレームの外へ──現代映画のメディア批判

 

映画におけるフレームの外を検討した本です。いうなれば序盤は教養主義的導入で、普遍的なことを書いてらっしゃると思うのですが、のみ込みやすく書かれておりその手つきに惚れベスト入り。ロッセリーニブレッソンから導入し、グスタボ・フォンタンで締めくくるのは流石と。 それとさらっとタルベーラdisる感じもね。

アニメーションの心理学 (日本心理学会心理学叢書)

アニメーションの心理学 (日本心理学会心理学叢書)

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 誠信書房
  • 発売日: 2019/09/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

こちらも論文集もの。アニメーションのモーション(動き)について、これだけの論文が入ったものは他にはないし、読んでおいて損はないと思います。特に5章「動きの造形論」は私的に抱えている考えにヒントを与えてくれる論考だったため、読んでよかったです。

  • 『アニメ制作者たちの方法 21世紀のアニメ表現論入門』フィルムアート社

Mercaの高瀬康司編なんですが、こちらは前半インタビュー集になっていて監督からアニメーターまで様々なインタビューが読めて単純に為になります。また、制作者お気に入りアニメまで載っているのでおすすめ。選んだ本の中じゃかなりキャッチーで読みやすいと思われます。

  • 『ニック・ランドと新反動主義 現代世界を覆う〈ダーク〉な思想』木澤佐登志、星海社

著者の文章力というか、読ませる能力がめちゃくちゃ高い。こんな人います、さらにこんな人います、いやいや、こんな人もいました〜とグイグイと惹きつけられる。これはいい意味ですけど、書かれている内容自体に興味がない人でも読めるんじゃないだろうか。それくらい面白いなと思いました。

オールドスクール・デスメタル・ガイドブック 中巻: ヨーロッパ編 (世界過激音楽)

オールドスクール・デスメタル・ガイドブック 中巻: ヨーロッパ編 (世界過激音楽)

  • 作者:村田 恭基
  • 出版社/メーカー: パブリブ
  • 発売日: 2019/11/10
  • メディア: 単行本
 

近年ブームのオールドスクールデスメタルに特化したディスクレビュー集。それのヨーロッパ編。私なんかがヨーロッパでパッとすぐ出てくるところは、Bolt Thrower! ってなっちゃいますかね。最近だとPestilenceがきましたね(自分は台風で見れませんでしが)。これ面白いのが、Butcher ABCの関根さんがインタビュー受けてるんですけど、テーマが「オールドスクールっていつから言い始めたっけ?」というところなんですね。確かに私なんかが中高生頃にネットでデスメタルを探しているときにデスメタルに対して「オールドスクール」という言葉はあまり見られなかったように思います。今では90年代ヴィジュアル系ですら「オールドスクール」なんて言ってしまいますし、時間の経過は怖いものですね。でもこの「オールドスクール」なデスメタルの認識って結構マチマチなんですね。だから知り合いのデスメタルファンとこの辺りをネタに酒でも飲めば楽しいんじゃないですかね。

  • 『LOCUST vol.03』ロカスト編集部 

booth.pm

デスメタルからいきなり旅行誌のふりした批評誌になります。こちらは主に文フリなどで販売されている同人誌ですね。LOCUSTは主に批評再生塾の3期メンバーが作っている批評誌。佐々木敦が好きでもなんでもないんですが、縁あってお話したこともある方が再生塾にでてらして、その頃からずっと見ていたこともあり、毎回買ってるんですが、そういった情抜きにして面白い。私は一昨年まで名古屋に住んでいたことがあり、今回の「美濃」も遠くなかったのですが、表紙になっている養老天命反転地や、山田尚子の『聲の形』の舞台である大垣くらいしか行ったことがなかったです。でも読んでると他の地にも出向いて見たかったなと思わされる。フィールドワークと批評の重要さに改めて思い知らされました。これは旅行誌としても、批評誌としても大勝利だと思うんですよね。

「ここまで脱ぎ散らすのは今回だけだぞ!」

すごい煽りですよね*1

スタイリストの佐野夏水作って感じなんですが、これ見てても思うのがアイドルってもちろん素のポテンシャルの部分も素晴らしくないとって感じですが、メイクとか衣装へのこだわりも最重要ですよね。歌やダンスももちろんだし、トークもそうなんだけど「今、私は世界一かわいい」って表情や自信をメイクや衣装でアイドル自身に思わせなければならない。そういった自信がなければ一流のアイドルにはなれないんだと感じる。水着やランジェリーも「エロ」目線はあるにしろ、顔の表情もいいし、相棒に私を託しましたって感じが上坂すみれから発せられているのが素晴らしいんですね。ちなみにAmazon限定版と通常版2冊書いました。しかしイベントは当たりませんでした…

といった感じのベストです。今年は小説強化したいなーと思ってます。どうなるかわかりませんが…

*1:最近買った白(kuro)の再発盤帯で「俺達こそドブのそこからわいて出た本物のパンクよ!」って言葉が綴られていたのですが、煽り文句として引けをとらない(白kuroファンの方すみません)

2019年映画裏ベスト

さて、これも恒例(去年やってないけど?)の2019年映画裏ベスト。裏といってもただ旧作映画の順位づけだけという…

  1. 一匹の狼/ロンサム・コップ
  2. 喜劇 男は女のふるさとヨ
  3. 鉄砲玉の美学
  4. 殺し屋ネルソン
  5. Um Século De Energia
  6. 殺人捜査線
  7. 時代屋の女房
  8. ビガー・ザン・ライフ
  9. 怪盗ルパン
  10. 警察官

twitterでやったときにフォードの『ウィリーが凱旋するとき』を入れていたのですが、成瀬を忘れていまして修正かけました。それ以外は変わらずですね。

2019年末にかけては、2010年代映画ベスト100をやるぞと意気込んで10年代の映画を再見していく試みでしたが、肝心のベストを作ることもできず新年を迎えてしまいました。twitter見渡すとフォロイーさんこんなに書いているんですよね。マジ尊敬って感じです…

note.com

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しかもね、みんなnote更新なんですよね。何だろう無国籍感とツールのシンプルさが流行っているのだろうか。身を引き締めて今年には出したいよね100ね。。。

それでも昨年旧作は年末に森崎東特集をブルーシアター(北千住)で毎週観れてよかった。『喜劇 男は女のふるさとヨ』今のところ森崎東ベスト。あの商店街は『夢見通りの人々』を想起する(こっちの方が先なんですけどね)し、あの路地裏はロマンポルノの記憶を刺激される。娘がさらわれた!旦那が殴られた!となればいてもたってもいられなくなり、彼/彼女らが生き生きと躍動する。日陰者に寄り添う暖かい映画だった。ランク外だけど『ロケーション』も映画内映画の傑作でした。年始も『生きてる内が花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』、『ニワトリはハダシだ』と森崎東特集とブルーシアター乗ってるね。『鉄砲玉の美学』実績のない若者が腕っ節だけ買われて宮崎を任される。空っぽな若者による、がむしゃらな人生ここにありモノで涙。そういえば、中島貞夫そこまで観たことがないなと思い反省する日々。孤独の男映画『一匹の狼/ロムサム・コップ』夜の街映画でもあるし、『真夜中の刑事』より断然こっち!オリヴェイラの短編も圧倒的なレヴェルでしたね。多分オリヴェイラ生きていてもやらないだろうけど、アニメ作ってもすごいの出来ると思うなーって感じた。殺し屋ネルソン『殺人捜査線』も素晴らしかった。ドンシーゲルの乾いた暴力ここにあり。ビガー・ザン・ライフはオープニングの子供達が駆けてドアから飛び出してくるシーンを観ただけで涙が出てくる。扉がキーになってて泣けました。『怪盗ルパン』これベッケルベスト!登場人物が優雅に舞ってるんだよね。身体の滑らかさにひれ伏した。『警察官』語りがめちゃくちゃ速くてたまらない。全力全開の運動映画!

それで以下次点かな。

ってな感じで、ことよろ!

 

◆追記(20/01/05)

さらに後で気づいたことですが、『SELF AND OTHERS』が抜けているのに気づき結局成瀬が圏外に…

  1. 一匹の狼/ロンサム・コップ
  2. SELF AND OTHERS
  3. 喜劇 男は女のふるさとヨ
  4. 鉄砲玉の美学
  5. 殺し屋ネルソン
  6. Um Século De Energia
  7. 殺人捜査線
  8. 時代屋の女房
  9. ビガー・ザン・ライフ
  10. 怪盗ルパン
  • 警察官 (次点追加)
鉄砲玉の美学 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
  • 発売日: 2017/08/09
  • メディア: DVD
 
殺人捜査線 [DVD]

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  • 出版社/メーカー: 復刻シネマライブラリー
  • 発売日: 2017/07/18
  • メディア: DVD
 
ビガー・ザン・ライフ 黒の報酬 [DVD]

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時代屋の女房

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  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
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  • 出版社/メーカー: 松竹
  • 発売日: 2015/09/02
  • メディア: Blu-ray
 
怪盗ルパン [Blu-ray]

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