つぶやきの延長線上 second season

映画、アニメーションのこと

「アニクリvol.9.0 監督 山田尚子総特集号」への寄稿及び「アニクリvol.6.5 βペンギン・ハイウェイ/文字と映像(序)」への再掲について(冬コミC95)

今年も早いもので師走です。告知ですが「アニクリvol.9.0 監督 山田尚子総特集号」へ『天使にふれるために——山田尚子論』を寄稿しました。

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山田尚子監督作以外にも参加作品を参照しながら、主題を抽出して書いた作家論になっています。1章では彼女の操る「道具」を媒体としたコミュニケーションに着目し、2章では「触覚的需要」をヒントに、3章では山田尚子に固有の触覚的なモノについて書いております。

作り物であるアニメーションについてどうしてこうも私たちはショックを受けるのか(まるで画面からキャラクターが飛び出してくるように感じるのか)。そんなことを「触覚」をキーワードに論じています。私は『たまこまーけっと』が山田尚子で一番好きな作品なので触れているのは一番多いかと。基本的に前に書いたブログ記事が土台になっています。

paranoid3333333.hatenablog.com

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それと前回「アニクリ6.6」で書いた拙稿(「『続・終物語』は何度も編集される」)が「アニクリ6.5β」に再掲載されるようで、こちらも冬コミで発刊とのことです。

こちらの内容は前回のブログ記事をご確認ください(以下)。ということで告知でした。

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映画映画ベストテン

毎年恒例となっているワッシュさんのところのベストテン企画へ参加します。今年のテーマは「映画映画ベストテン」とのこと。

d.hatena.ne.jp

 

  1. 教授とわたし、そして映画(ホン・サンス、2010)
  2. カミュなんて知らない柳町光男、2006)
  3. Notre nazi/Unser Nazi(ロバート・クレイマー1984
  4. 心霊玉手匣 其の四(岩澤宏樹、2015)
  5. オリーブの林を抜けて(アッバス・キアロスタミ、1994)
  6. これは映画ではない(ジャファール・パナヒ/モジタバ・ミルタマスブ、2011)
  7. カンヌ映画通り(ダニエル・シュミット、1981)
  8. ほんとうに映した!妖怪カメラ(寺内康太郎、2015)
  9. シテール島への船出(テオ・アンゲロプロス1984
  10. 旧支配者のキャロル(高橋洋、2011)

 

映画映画となるとメタ的な構造が指摘されるわけですが、構造そのものよりも何かが何かへ移行する様子、また、その間で揺れ動くことが魅力だと思う。

このテーマになったときにホンサンスの映画で全て埋められるんではないか? と考えたが、その中でも本テーマにピッタリなのが『教授とわたし、そして映画』でしょうか。チョン・ユミを巡るという短編映画が4回も反復(変奏)される変わった構造。果たして自分が見ているものはなんなのか? と最初は戸惑うかもしれないが、その映画の戸惑いに呑み込まれること間違いなし。

カミュなんて知らないは映画を撮影する大学生たちの舞台裏を撮影しているということで、トリュフォーアメリカの夜』あたりや、アルトマンの『ザ・プレイヤー』あたりを連想するが、その中でもいちばん好きかもしれない。かけておいてよかった生命保険って感じで。それと映画製作の話ということで、『旧支配者のキャロル』も選んでみた。お金に困った監督が、「私を買ってください」って身体を売りに行くシーンがあるんですが、そこがスマートで素晴らしいっす。

クレイマーの『Notre nazi/Unser Nazi』は、トーマス・ハーランの『Wundkanal』という作品の撮影風景をとらえたドキュメンタリー(ルポタージュというべきか)。刑務所から出てきた大量殺人犯を俳優に仕立てるまでの映像が記録されているんだけど、劇伴も不気味で恐ろしい映画。しまいには本人が泣いてしまうのだけど、煽りまくったりキレたりメチャクチャな撮影風景。

心霊ビデオでいえばいくらでも(例えば『コワすぎ』シリーズ)浮かんでくるのだけど、その中でも『心霊玉手匣 其の四』は抜きん出ている。海岸沿いで頭がおかしくなった男性。その海に続く川の上流で学生時代に撮影していた映画で起こった事件について、その川を撮影班と下りながら語っていく。過去/現在/未来、多数の視点が交錯するトンデモない映画。なんとなくシュミットの『デ・ジャ・ヴュ』の感覚に近しいと思っている。また心霊ビデオだと『ほんとうに映した!妖怪カメラ』もいい。普段、心霊映像(『監死カメラ』シリーズ)を撮影している監督が、プロデューサーに妖怪を撮ってこいと放り出されてしまう。ここで面白いのが妖怪はなかなか撮影することができないのに、本テーマではない「心霊」はあっけなく撮影してしまえること。あっけないというよりも「あっ〜いるいる」って感じであり、ありがたみもへったくりもないのである。『テラスハウス クロージングドア』と一緒に見続けていきたい虚構の蠢きが感じられる傑作。

先に書いた何かが何かへ移行する様、そしてそれの揺れ動きというとキアロスタミは忘れてならない。『オリーブの林を抜けて』イラン北部の村に住む青年と、彼が想いを寄せる彼女が俳優として抜擢されるが、現実では彼は振られ続けてしまう。なんとか彼女を自分のものにしようと必死にアレコレと口説き文句をいってみるのだが、それでは彼女もなびかないだろーなんて言葉もでてくる。しかし彼は諦めないし、途中で映画から抜け出てジグザグに歩きながら映画が終わっていく。キアロスタミの映画は『トスカーナの贋作』でもそうですが、何が嘘で何が本当なのかさっぱりわからなくなってくることだ。そういった意味だとキアロスタミの助監督にもなったジャファール・パナヒも嘘のつき方が上手。イランは政治批判の映画を公開してしまうと監督が警察に捕まってしまったりするらしいのですが、パナヒも20年間映画製作を禁じられてしまってしまう。その様子を撮影したのがこれは映画ではない。デジタルヴィデオカメラとiPhoneを使用して作られているが、英語題だと『This is not a film』なんだよね。確かにフィルムではないんだけど、どう見ても映画なんだね。パナヒの自宅(マンションの一室)とエレベーターと、マンション前だけで撮影されているのにこれが面白い。

キアロスタミのしつこさもさることながら、ダニエル・シュミット『カンヌ映画通り』も相当しつこい映画だ。カンヌ国際映画祭に招待されていない主人公が、なんとか映画祭に潜り込もうと潜入する。当然のごとく受付で弾かれてしまうのであるが、それを何度も何度も続ける。さすがに見ているほうもめんどくさくなってくるのだが、このめんどくささがなんとも映画なんじゃないかって気がしてくるのでシュミットはすごい。

フレーム内から自分物がすっと出てくる感覚。アンゲロプロスの『シテール島への船出』もすごい。映画監督は撮影所のそばで花売りをしている老人を俳優にピッタリだと後をつけることになるのだが、鏡越しからすーっと出てくるシーンがすごい。また、老人の後を追っていたらそのまま劇中劇になってしまったり、水たまりをカメラがとらえそこに人影が映ると老人が出現する、というフレーム内フレームの演出がものすごい。キアロスタミとは違った性質だが、アンゲロプロスの映画は平気で時空を超えるし、虚構をまたいで行くところが魅力的だ。

といった感じで10選でした。集計よろしくお願いします。

カミュなんて知らない [DVD]

カミュなんて知らない [DVD]

 
心霊玉手匣4 [DVD]

心霊玉手匣4 [DVD]

 
オリーブの林をぬけて  ニューマスター版 [Blu-ray]

オリーブの林をぬけて ニューマスター版 [Blu-ray]

 
これは映画ではない [DVD]

これは映画ではない [DVD]

 
シテール島への船出 Blu-ray

シテール島への船出 Blu-ray

 
旧支配者のキャロル [DVD]

旧支配者のキャロル [DVD]

 

 

「アニクリvol.6.6 続・新房昭之ノ西尾維新『続・終物語』」への寄稿について(11/25,文フリ)

最近は朝が寒くてなかなか起きれない日々を過ごしておりますが告知です。「アニクリvol.6.6 続・新房昭之西尾維新続・終物語』」へ『続・終物語』に関する文章を寄稿しました。

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今年は『少女終末旅行』や『リズと青い鳥』などアニメクリティークさんへ寄稿させて頂いていましたが、これで今年3本目。初めて掲載させて頂いたのが『傷物語』だったことからも何かしら書きたいなーという思いから書かせて頂きました。

内容は「『続・終物語』は何度も編集される」といった文章で、本作がテレビ放送前の先行劇場公開版であったことを手がかりに、編集という可能性について本作の主題を意識して書いております。

今回の文フリはアニメ関連以外にも、批評系同人誌が数多く新刊を出されるようなので、気になる方は足を運んでみるといいと思います。アニクリ6.6は6.1ぶりにコピー本になるはずなので、多分通販はないんじゃないかな? そうすると現場にいかないと入手できないと思うのでぜひ。また、エクリヲの新刊でアニクリ全誌レヴューというとんでもない企画があるらしく、そちらも合わせてチェックしてみると面白いかもしれません。当日は文フリに寄れるか微妙なのですが、ぜひぜひよろしくお願い致します。

最後にアニクリさん怒涛のいきおいで新刊準備されていますので、冬コミなんかもチェックしてみるといいと思います。では。

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